後悔のない人助けを

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後悔のない人助けを

 思わず助けたはいいものの、明らかに様子がおかしい男性。  しかしそれを差し引いても、美の暴力と言うくらい彼の顔立ちは整っていた。  それに比べて暗めの銀髪はぼさぼさになっており、顔色は非常に悪そうだった。空を連想させる瞳はどこか曇った眼差しでうつろになっていた。 「あ、あの」  私が声をかけても、返事がくる気配がない。どうして、という言葉の先が恐らく〝なぜ自分を助けたのか〟という疑問だとは思ったものの、最後まで発せられなかった言葉に返すのはためらいが生まれる。 (……この人、飛び込もうとしたように見えたけど)  自ら危険な真似をする理由がありそうなほど、彼の持つ雰囲気は重く苦しいものだった。  助けたのなら、ここで終わりにして去ることもできる。しかし、不用意に助けてしまった以上どうにかしなくてはならない、という気持ちが働いた。  それに、このまま放置すれば彼は同じことを繰り返す。そう直感で感じた。  そんな寝覚めの悪いことはできないし、後悔するのは嫌だ。 「あの……ここで立ち止まっていると他の人の迷惑になってしまいますので、ひとまず座れる場所に移りましょう」  こちらを見ようともしない男性の手を引くことにした。意外にも素直についてくると思ったが、それさえもどうでもいいのかもしれない。  誰かに話をしたいと思っていたから着いてきた、というのは私の希望に過ぎない。不安を抱きながらも、近くの喫茶店へと入った。  何が飲みたいかと聞いても返事がなかったので、何が飲めないのかと尋ねた。「……特には」とようやく返答がきた。  適当にコーヒーを二つ頼むと、男性を自分の向かい側に座らせた。 「……よろしければ、お話聞きます」  無表情な男性に、そっと問いかける。下を向いたままで、虚ろな瞳なのは相変わらずだ。  問いかけた以上待ってみることにしたが、沈黙が流れるだけだった。  やがてコーヒーが運ばれてきても、男性は微動だにしなかった。  困った。見るからに男性は若かったが、これ以上何を話せばいいのかははわからない。  普段学園で生徒を相手にしているとはいえ、関わることはそう多くない。そもそも相談を受けたこともあまりないので、この状況には戸惑いしかなかった。しかし、重く口を閉ざされてしまった以上、私にできるのは観察のみ。 (観察して、解決の糸口をみつけよう)  何だか絶望しているような顔だ。生気がないのは明らかだった。ここまできた以上、少しでも明るい姿を見なくては終われない。    どうしようと考え込む。  もしや、初対面だから話せないタイプの人かもしれない。  相談された経験はないが相談に関する知識はある。何から始めようかと悩んでいると、男性はぼそりと呟いた。 「俺の話は……重すぎますので」  力なく笑う男性は、まるですべてを諦めたように見えた。重すぎる、だから私には話せない。そう聞こえた。  重い、重いか。それならまずは私から重い話をしてみてもいいかもしれない。    
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