後悔のない人助けを

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 昔、ある本に緊張しやすい人でも自分より緊張している人を見るとマシになると書いてあった。それなら今回の重い話にも、同じことが言えるかもしれない。  自慢できるものではないが、重い話なら私も持っているから。 「では先に、私から重い話をしますね」 「……え」  そう返されるとは思っていなかったようで、男性の目線はゆっくりと私の方を向いた。曇り気味な瞳は変わっていなかったが、それでも美しいと思えるほど綺麗な瞳だった。 「私は没落貴族です。家もない、領地もない、贅沢を言えるようなお金もありません。両親はもういません。その上、当主だった兄夫婦は亡くなり、残されてしまった姪を娘として育てています。正直言って貴族とはかけ離れた暮らしをしています」  私は、没落とは言え〝貴族〟という肩書きからは想像もつかないような、貧乏暮らしをしている。もうここまでくると慣れだが、正直本音を言うともう少し楽ができたらと思う日はある。ルルメリアとの暮らしに不満があるわけではないけど。  ただ、初対面の人ならこの事実だけ聞けば〝重い〟と感じるはずだ。  自分の境遇を知りもしない人に話すのは、正直褒められたことではない。ルルメリアが同じことをするのであれば、すぐさまやめなさいと止めているところだ。  しかしこの男性は、助けてしまった以上私がどうにかするしかない。だから少し捨て身で話すことにした。  まぁ、没落貴族の話など悪用されることはないし記憶に残ることもないだろうから。  話を終えると、男性の様子に変化が起きたのがわかった。虚ろだった瞳は、今は私の方に焦点が合い始めている。それを興味の表れと捉えると、もう一度彼に尋ねた。 「……よろしければ、お話聞きます」  真っすぐと男性を見つめれば、彼は一度目を伏せてからゆっくりとまたこちらを見つめ返した。 「実は、俺も……兄を失ってしまって」  話し始めてくれたのは、同じような境遇だったことが大きかったようだ。 「……ずっと、慕っていた兄だったんです。……両親は既に他界していて、頼れる人が兄しかいなくて。…………でも、いなくなってしまって」  悲しさを含んだ眼差しは、とても胸にくるものがあった。  あぁ、何だかわかる気がした。彼は今、孤独なのだと。  両親は早くに亡くなってしまい、最後の心の拠り所だった兄まで失ってしまった。この喪失感は、私も覚えがある。 「いなくなるなんて、考えたこともありませんでした。…………もう、どうしたらいいか……わからなくて」  だから馬車に飛び込もうとした、とまでは言わなかった。どうやら絶望しているものの、決意して死を選択したわけではないのかもしれない。  この世界に一人取り残されてしまって、行き場も生き方も見失ってしまった人。そんな風に映った。  それはまるで、かつての自分のようだった。  
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