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翌朝、朝ご飯を用意して二人で食べる。
食べている様子は特に大人びていることはなく、むしろ食べ物を少しこぼしているあたり、まだまだ幼い子どものよう。
「ごちそーさまでした!」
しっかりと食事の挨拶はできる。これは私がするように教えたのもあると思うが、よく見てみれば手を合わせるのを教えた記憶はない。
(あれは前世の癖なのかな)
そんなことを考えながら食事の片付けを終えると、ルルメリアと話すことにした。
「ルル、聞きたいことがたくさんあるんだけど」
「なぁに?」
今日はお絵描きをしていたようだ。うん、絵心はない。絵画のセンスも年相応だ。
「描きながらでいいから」
「うんっ」
「ルルはひろいんで、逆はーれむをしたいの?」
「もちろん!」
「……それはどうして?」
「だってひろいんのとっけんだもん!!」
ひろいんのとっけん。特権か。ルルメリアの中ではそうらしいが、私の理解は追い付かなかった。ひろいんが主人公で、主人公に特権があるとしよう。その主人公がルルメリアなわけだが、残念なことに没落貴族の末裔にそんな権利はない。
心苦しく感じながらルルメリアを諭す。
「特権……うちにそんなものはないよ」
「あたしにはあるの! ひろいんはね、なにをしてもゆるされるんだから!」
そんなわけがあるか、と言いたくなるのを呑み込んだ。
何をしても許される人などいない。教育者だからわかることだが、学園内では高位貴族でさえ規則を守らなければ罰せられるのだ。
(なるほど。ルルが特権という意味をはき違えているのはわかった)
どうしてそこまでひろいんが凄いのか、私にはいまいちわからなかった。
「ねぇ、ルル。もっとひろいんについて教えてくれない? ルルはどれだけ凄いの?」
「いいよ!」
ばっと顔を上げると、絵を描いていた手を止めて紙を手放した。自慢したい子どもにとって、なかなか良い誘導だったようだ。
「まずねー、ひろいんはおうじさまとけっこんできるの」
「王子様……もしかしてルルの言う王子様の名前って」
「まくしみりあんでんか!」
あっている。私達が住むトルメロイ国王子の名前はマクシミリアン様だ。確か現在五歳……ルルメリアと同じ年である。
この子は王子殿下をはべらせようとしているのか。そう考えると背筋が凍った。
「あとねー、たいこーしさま!」
「大公子様って……もしや」
「ぎでおんさま‼ ぎでおんさまともけっこんできるの!」
いや、普通に考えて重複婚は法律上禁じられているので無理です。思わずそう突っ込みたくなったが、黙って聞き続けた。
そもそもルルメリアは、学園に通うことで王子殿下や大公子様に出会うらしい。それが〝シナリオ〟の始まりなんだとか。
出会うのは他に宰相の息子、騎士団長の息子、教師と名前を出されたが私が知っている人ではなかった。マクシミリアン殿下はまだ百歩譲って知っていた可能性はある。しかし、ギデオン大公子は貴族と関わりのないルルメリアでは知りえない情報だ。
これをただ夢見る五歳児と片付けられればどれほど楽だろうか。それができないのは、逆はーれむに対する懸念と、この子の前世発言があったからだった。
「……ルルメリアは王子殿下と婚約できないのに」
没落貴族の末裔が、王子妃になれるほど世の中甘くはない。普通に考えれば、マクシミリアン殿下には相応の婚約者がつくはずだ。それこそ、公爵家のご令嬢のような優秀な家格の者が。
「こんやくはき!」
「……え?」
「まくしみりあんでんかはこんやくはきするの! あたしのために」
ふふふと得意げに語るルルメリア。
どうしよう。何だかとんでもないことを言い始めてしまった。
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