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聞き間違えではありませんでした
惹かれ続けている。だから頑張る。
聞き間違えではなかった。
その言葉が、私の中で混乱を招き続けていた。念を押されたこと、二回も言われたことがより強い意味を持たせてしまう。
……オースティン様が、私を?
そんな考えが生まれては、違うと頭から振り払うように首を横に振る。それでもまた生まれてしまって、の繰り返し。
「おかーさん……おはよう」
「おはよう、ルル」
眠そうな目をこすりながら、ルルメリアが起きて来た。
「……おかーさん、きょうおしごと?」
「そうだよ……あっ、もうこんな時間!」
考え事に夢中で、準備がおざなりになっていまった。おまけにルルメリアを起こすのも忘れていた始末。
「ルルごめんね、急いでこれ食べて!」
「はーい」
椅子に座ってパンを手に取るところまで確認すると、私は自分の身支度を整え始めた。
「……よし」
着替えを終え、髪も整えた。荷物の確認もしたので、後は家を出るだけ。
「ルル、食べた?」
「……うん」
昨日ピクニックではしゃいだ分、疲れがたまってきているようだ。「ごめんね」と言いながら、急いでルルメリアの服を変えていく。
「ばんざいして」
「ばんざーい」
うとうととしている我が子は、一人では着替えられないほど眠気と戦っていた。
「はい、できた!」
「できた……」
「ルル。マイラさんのところ行くけど、歩ける?」
「うーん?」
こりゃ駄目だ。意思確認をしている間にも、刻一刻と時間が迫って来ていた。
「失礼しますよー」
よいしょと抱きかかえれば、そのままマイラさんの家まで連れて行った。
「すみません、まだ眠いみたいで」
「気にしないでくれ、子どもは寝て育つからね。奥で寝かせておくよ」
「本当に、いつもありがとうございます」
頭を下げながらルルメリアをお願いすると、マイラさんに見送られながら学園へと出勤するのだった。
思い切り走って、遅刻ギリギリの時間に到着した。
「オルコットさんがこの時間とは珍しいですね」
「教頭先生……すみません」
「いえ。間に合っていますので問題ありませんよ。ご無事で何よりです」
厳格な教頭先生に小言を言われるかと思えば、返って来たのは心配していたという声だった。身構えた自分を心の中でひっそりと謝罪した。
こうして仕事に取り掛かるものの、席に着いても考え事で頭の中が埋め尽くされてしまう。
惹かれ続けています。惹かれるって、好意があるという意味……だよね。力になりたいというのは純粋な厚意だとしても。惹かれるはもう、弁明のしようがないというか。いや、私が弁明するわけじゃないけど。
思考すればするほど、答えからは遠ざかっている気がした。唯一わかったのは、私はオースティン様の言葉でこんなにも動揺してしまうのだということだった。
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