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にこりと微笑めば、オースティン様から申し出をいただく。ただ、じっと紙袋に視線が移る。
「大変だと思いますので」
「いえ。繰り返しにはなりますが、鍛えておりますので」
そうは言われたものの、大量の食材を手にしたまま歩かせるのは気が引けてしまった。自分なら大丈夫だと断言しようとすれば、オースティン様のどこかしょんぼりとした雰囲気が言葉を呑み込むことになってしまった。
「……それなら、お願いできますか?」
「もちろんです……!」
表情は変わらないものの、声色は明るい方に変化していた。
両手がふさがっているので、エスコートされることはなかったものの、隣を歩いてくれるだけで心強かった。
「オースティン様は何かしたいことはありますか?」
「したいこと、ですか?」
「はい。この前はピクニックだったので」
ふむと考え込むオースティン様。真剣に悩む姿を見ると、少し負担になってしまったなと感じる。
「今思い浮かばなければ、また後ででも大丈夫ですよ」
「すみません。日程だけ先に決めてもよいでしょうか」
「もちろんです」
再び、出勤日との兼ね合いを考えて日程を設けた。今度は三日後ということになり、内容はオースティン様に一任する形になった。
「頑張って考えてきます」
「本当にしたいと思ったことでよいので」
「はい、ありがとうございます」
なるべく負担にならないように伝えたところで、マイラさんのパン屋さんが見えてきた。マイラさんからルルメリアを引き取ると、オースティン様に挨拶をさせた。
「あっ、おーさんだ‼」
「ルルさん、こんにちは」
「こんにちはー‼」
昨日ぶりではあるものの、ルルメリアにとっては友人に会えることは嬉しいようだ。
朝みた眠そうな様子からは一転しており、すっかり元気を回復した様子だった。
「ルルさん、次は三日後になります」
「ほんと? たのしみにしてるね!」
ぱあっと目を輝かせるルルメリアに、こくりと頷くオースティン様。
オースティン様に自宅まで送ってもらうと、私はようやく緊張感から解放されることができたのだった。
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