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重要なことも、簡単なことも、知ってると決めつけてはいけない。教えることこそ私の、母の役目なのに。
私はそれを放置してしまった。
「ごめんね、ルル」
淑女教育ばかり意識しすぎて、単純な教養に目を向けられなかった私に責任があるので、ルルメリアは謝らないでいい。
「……おかーさん、あたしおひめさまごっこたのしかったよ」
「えっ」
「だからね、おかーさんもわるくないの!」
そう断言するルルメリア。
ルルメリアの顔は、どこか不安そうなものだった。
「おちこまないで」
そう言われて初めて自分が暗い顔をしていたことに気が付いた。
あぁ、私はルルメリアを不安にさせてしまった。
ダメダメだな、と思いつつもルルメリアの言葉のおかげで重く沈んだ心に光が差した。
「ありがとう、ルル」
「うん」
ふっと笑みをこぼせば、今度はルルメリアが落ち込む番だった。
「どうしよう、あしたかぶっちゃった」
「あっ」
ルルメリアと約束した日を確認すれば、オースティン様と会う日とルルメリアがお友達と遊ぶ日は一緒だった。
「ルル。せっかくさそってもらったんだから、お友達のお家行っておいで」
「いいの?」
「うん。オースティン様には私から謝罪して、別日に変えてもらうから」
「……そーする!」
「うん、そうしよう」
ルルメリアにとっては、どちらも行きたいだろうけど、何日も前から楽しみにしていたのはどちらか知っていた。
「それじゃ、おかーさんはおーさんとふたりでたのしんでね!」
「……え? 明日は断ろうと」
「だめだよ! どたきゃんはよくないもん!」
「ど、どたきゃん?」
また知らない単語が出てきた。唖然としていれば、ルルメリアは聞くより先に言い換えてくれた。
「とうじつことわるの、しつれいだもん」
「そ、それは……確かにそうだね」
そう納得すれば、ルルメリアは勢いよく頷いた。
「うん! あしたになったからきがえてくる!」
「わ、わかった」
ルルメリアはドタドタと走り出したが「あっ」と自分で気が付いて、静かな歩き方に変えていた。
私はというと、オースティン様と二人きりという言葉の威力が強すぎて、頭が真っ白になっていた。
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