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花市場は以前のバザーと比べると大きな規模のイベントで、数多くの人によって出店がされていた。
ネックレスをいただいた後は、各所を見て回ったり、焼き串を食べたりしていた。中央の特設舞台では楽団による演奏もしていたので、それを聞くことにした。
「とても綺麗な音色ですね。特にバイオリンの響きが素敵で……」
「クロエさんはバイオリンの経験が?」
「幼い頃に少しだけ。今はもう弾き方を忘れてしまいましたが……やっぱり好みの音色です」
「そうだったんですね」
幼い頃、実家に古びたバイオリンを見つけた時に弾いてみたことがあった。楽器に触れるのは好きだったと思う。
(借金返済のために、売ってからは触れなくなっちゃったけど)
そう言えば長らくバイオリンも、楽団という立派な演奏も聞いてなかったことを思い出した。
「今日は演奏を聞けて良かったです。久しぶりに心が弾みました」
やっぱり私は音楽が好きなようで、自然と口角が上がっていた。
「……クロエさんさえ良ければ、今度演奏会に行きませんか?」
「えっ」
「鑑賞がお好きなら、是非」
オースティン様の新しいお誘いには言葉を詰まらせてしまった。彼の言う演奏会は、恐らく貴族限定の催しだ。そこに自分が足を運ぶのは、正直場違いな気がする。
「ありがとうございます、オースティン様。ですがーー」
「まぁ! レヴィアス伯爵様じゃありませんか」
「えっ」
「……?」
オースティン様の後ろから女性の声がした。振り向くオースティン様と一緒に、私も声の主を確認する。
「……ミンター男爵令嬢、ですか?」
「はいっ、お久しぶりにございます。覚えてくださったんですね。嬉しい……!」
声の主は私より若いご令嬢で、彼女はいかにも貴族らしい華やかなドレスを身にまとっていた。
「レヴィアス伯爵様は侍女といらしてるんですね。私も同じで」
侍女。それは間違いなく私のことだろう。確かに今の格好ではそう見えては仕方ない。しかし、ミンター男爵令嬢にそう言われて、いい気分ではなかった。
「お話が少し聞こえたのですが、レヴィアス伯爵様も今度の演奏会行かれるんですね。もしよろしければご一緒にどうでしょうか」
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