人のものを取ってはいけません

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人のものを取ってはいけません

     食べ終えると、今日は根本的かつわかりやすく話してみようと考えていた。ルルメリアが大人びた言葉を覚えても、そこまでなのだ。 (法律……決まり事の話は五歳児にはまだ早かったな)  昨日の感覚だが、ルルメリアは難しい言葉は理解できてもあくまでも言葉だけなのようだ。  複雑な仕組みは理解できない、もしくはする気がない。それなら、まずは考え方を変えるべきなのだ。 「ルル、昨日とは違うお話をしよう」 「いいよ! なかなおりしたから!」  何て単純な子なんだと思う反面、こんな子がはーれむだなんて言っているのは少し信じがたかった。  今日もまた床に座ってぬいぐるみで遊んでいた。確かあれは、ルルメリアの一番お気に入りのくまのぬいぐるみだ。 「ルルは、王子様と結婚するんだよね」 「そーだよ!」 「でも、王子様には婚約者がいるんだ」 「いるの! でもルルをえらんでくれる!」  屈託のない笑顔は、そう未来があると信じて疑わないものだった。 「そっか……」  小さく返すと、私はルルメリアに別の話を始めた。 「ねぇルル。そのくまさんのぬいぐるみ、私にちょうだい?」 「えー、やだ! おかーさんでもだめ」 「嫌なの?」 「うん、だってあたしのものだもん」 「そっか、じゃあ勝手にもらっちゃうね」 「えっ」  ひょいっとぬいぐるみを奪うと、ルルメリアはぽかんとした。状況を理解できると、泣きそうな顔で抗議をし始めた。 「おかーさん、それあたしのぬいぐるみ……」 「そうだね、これはルルのぬいぐるみだね」  頷く私に、ルルメリアはますます不満そうな顔になっていく。 「でもルル。ルルが王子殿下と結婚するのは、婚約者さんからこうやって取っていることと同じなんだよ」 「えっ」  表情が変わるルルメリア。不満そうな顔は既になく、驚いたものへと変化していた。今ぬいぐるみが奪われたルルメリアは確実に不満と悲しさを抱いていた。 「……あたし、そんなつもりじゃ」 「そっか。でもね、ルルが王子様を取っちゃうと、婚約者さんが今のルルみたいな気持ちになっちゃうんだよ」 「……こんやくしゃさんがかわいそう」 「うん。人から物を取ること、奪うことはいけないことなんだよ」  しょぼんとするルルメリア。それでも私がひろいんだから、と言われてしまえばそれまでなのだが、ルルメリアはそこまでがめつい子ではないと信じていた。    少しの沈黙が流れる。ルルメリアは考えているようだった。 「あたし、うばわない。うばうのはわるいこ。ひろいんはいいこなの」 「うん、ルルはいい子だね」  ぬいぐるみをルルメリアに返すと、よしよしと頭を撫でた。  これで王子から略奪しないと決まったわけではないが、一つ一つ教えれいけば、真っ当な子になるはずだ。こうやって一つずつ教えていこう、そう思った矢先だった。
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