ドレスをまとって

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 平凡な平民の家の前には似つかわしくない馬車が止まった。 「すごーい!」  ルルメリアと窓から玄関の方をチラリと見ていれば、ノック音が響いた。 「クロエさん、ルルさん。オースティンです」  そっと窓を離れながら、扉の前に立つ。深呼吸をすると一言答えた。 「どうぞ」  扉が開くと、そこにはいつも以上に眩しいオースティン様の姿があった。  普段着ているシャツにズボンという軽装ではなく、貴族の場に相応しい正装はオースティン様の美麗な姿をより際立たせていた。 「……クロエさんがあまりにも綺麗なので、言葉を失っていました」 「そ、そんな。オースティン様のお姿の方がとても素敵で」  緊張のあまり、言葉があまり浮かばない。語彙力のない褒め方に焦りが生まれるものの、オースティン様は嬉しそうに微笑んだ。 「ありがとうございます。クロエさんにそう仰っていただけると、嬉しいです。今日一日、クロエさんをエスコートできることが何よりの幸せです」 「……ありがとうございます」 (あ、あれ? オースティン様ってこんなに積極的な方だったっけ……?)  普段の無表情に比べれば、少し穏やかな表情になっているくらいでそこまで変化はない。しかし、放たれる言葉にはいつも以上に優しさと甘さが加わっていた。 「ルルさんも、とても可憐です。本当によく似合っています」 「えへへ。おーさんはおうじさまみたい!」 「ありがとうございます、ルルさん」  ルルメリアは嬉しそうに笑った。 「ではクロエさん、ルルさん。行きましょうか」  オースティン様から差し出された手に自分の手を重ねた。もう片方の手は、ルルメリアと繋いだ。馬車に乗り込む時は、しゃがんでルルメリアのエスコートもしてくれた。 「どうぞ、ルルさん」 「えっと」  エスコートされたことがない上に、そんな練習もしなかったので戸惑いを見せたルルメリアが私の方を見た。私は応援するように、どうすればいいのか伝えた。 「ルル、手をそっと取って乗るのよ」 「……できた! おーさん、ありがとう」  馬車に乗ったルルメリアは、私の隣に座った。オースティン様とは向かい合って座る形になる。全員が乗り込んだところで、早速馬車が出発するのだった。
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