人のものを取ってはいけません

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「それじゃ、あたしがさきにであえばいいんだよね!」 「そう来たか」  思わぬ返しに、前途多難な空気を感じる。だが、一つ希望を見いだせた。  やはりルルメリアは前世の記憶があるが、それに全て引っ張られているわけではないようだ。    精神年齢は不思議と年相応で、教育すれば改善される余地が見られた。それなら私がすることはただ一つ。    この自称転生者かつヒロインを立派に育て上げることだ。 (決めた……教育方針は、ルルを立派な淑女にすること!)  男を侍らせず、よそ様の婚約者を略奪しない、常識的な子に育てようと私は強く決意した。  そう決めた所で、ルルメリアの疑問に答え始める。 「先に出会うのは難しいんじゃないかな?」 「なんで?」 「だって私もルルも、貴族であって貴族じゃないから」  今まで質素な暮らしをしていたことで、没落貴族だとルルメリアでも気が付いていると思う。だから私は躊躇いなく真実を伝え始めた。 「ルル。私達はいわゆる没落貴族なの」 「しってるよ! びんぼーなんだよね?」  貧乏……教えたことのない言葉を知っていることは理解できていたが、娘に貧乏と言われてしまうのは胸にくるものがあった。 (どうやらルルは、精神的に未熟で語彙力だけ大人びてるみたい)  ほんの少しだけ落ち込みながらも、私は悲しい目で頷いた。 「そうだよ、私達は貧乏なの。だから王子様に先に会うことは難しいんだ」 「あいにいけばいいよ!」 「うーん……無理やり会いに行くのはできないの。まずお城に入ることはできないから」 「どうして?」 「ルル、お城に入るのはね、来て良いですよっていう手紙がないとできないんだ」 「しょーたいじょーだ!」 「そう、それ」  残念ながら名ばかりの没落貴族には、招待状が送られることはまずない。万が一に奇跡があって送られたとしても、王城に行けるようなドレスは持っていないのだ。 「だから、先に会うっていうのは難しいよ」 「しょーたいじょーもらえるようになれば、あえるよね?」 「……それは、そうだけど」  王城に入ることができれば、王子に会える可能性は出てくる。 「でもねルル。うちにはドレスがないから。それに招待状をもらえるような家じゃないし」  そう諭そうとすれば、ルルメリアは満面の笑みで私を見上げた。 「だいじょーぶ! あたしきぞくのむすめになるから‼」 「……一応今も貴族の娘ではあるよ?」 「ううん、びんぼーじゃない、ちゃんとしたきぞくのむすめ‼」  一瞬、戸惑いが生まれた。  ルルメリアは貧乏という言葉を理解している。そうだとすれば、対照的に挙げられたちゃんとした貴族と言うのは、恐らく機能している貴族ということだ。    ルルメリアが私のことを嫌っていたとしても、私は兄と義姉の忘れ形見を手放すつもりはない。 「……ルル、私はルルをよその子にするつもりはないよ?」  恐る恐るそう伝えれば、ルルメリアはきょとんとしながらとんでもないことを言い放った。 「でもおかーさんはしんじゃうんだよ?」  真顔で言い切るルルメリアに、私の思考は停止した。
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