第三話・写真

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 一通り話を聞き終えた霊媒師の男は何を思ったか、ふっと笑みをこぼす。 「貴方自身、御屋敷の使用人の女と道ならぬ恋に墜ちた経験がおありなわけですが。そうして交わって出来たお子がギョヌ殿…。 因果、というものですかねえ」 「……」 「では、拝見致しましょう」  男は差し出された写真をじっくり見やると、これまたゆっくりと手をかざした。  明くる日の夕方。街から少し離れた草原にて。海が綺麗に見れる絶景の地にかの男女はいた。  ギョヌとの逢瀬にはしゃぐ三鈴であった。が、何処かしら空元気な様子をギョヌは見逃さなかった。ふっと表情が暗くなるのだ。 やはり、かの病が怖いのだろうか?あの時と同じ顔つきだと勘繰る。 「なぁトッキ、ここに座ろウか」  大木の下に二人で腰を掛ける。風は柔らかいが、夏が近づいているせいか気温がやや高めで、二人とも少し汗ばんでいた。 「やだ、私そんなに表情暗かったですか?」  雑談をする中で、何かあったのか問いかけるも、別に何もないですけど、とはぐらかされる。病の事が不安なのかと聞いても、それもないと否定される。あまりしつこく聞くのも良くないか、とギョヌは話題を変えてみる。 「そうか。ところで…この海を越えると、日本に行けるんだな」 「……ええ」 「…なぁ、トッキや」  不意に、三鈴の手を握る。この暑さのせいか、熱い。 「出来れば、お前とこれからも一緒にいたい、なんて思っては駄目か?」 「……若様?」  ああ、言ってしまった。しかしあとには引けまい。 「お前と、日本で暮らしたい」 「……」  三鈴は動揺を隠せない。  駄目だ。どう考えても無理な話だ。だって彼は、名家の跡取り。私は異国のしがない平民の娘…。両親、特にお父ちゃんが許さない。若様のお家でも、それ以上に嫌がるだろう…。 「だ、め…若様。だめ、だから」  気がつくと三鈴の大きめの眼から、ポロポロと滴。ギョヌはすかさず自分の腕に彼女をおさめる。 「私とて手ぶらで行こうなど考えていない。あの日本軍人と相談して、水面下で準備をしている。それでも駄目か?」 「そんな簡単に決めちゃダメに決まってるじゃないですか!馬鹿でしょ!」  ギョヌの胸にドン、と三鈴の小さな拳が一つ当たる振動を感じる。しかし、その仕草が、ギョヌの嗜虐心も含まれた黒い感情・情欲に火をつける事になる。  何かが、ギョヌの中で壊れた。辛うじて保っていた理性は境界を越え、野性が出てきてしまったのだ。  気がつくと、三鈴を雑草の生えた地面に押し付け、彼女の口を己のそれでふさいでいた。  同時に常に頭にかぶっていた黒帽を素早く取り、投げ飛ばす。少し風に吹かれて飛ぶが、やがて地面にぼとりと落ちる。  欲望のままに、三鈴を貪る。唇だけでは到底足らず、着物を剥ぎ取り、首や耳に容赦なく舌や唇を這わせ、やがては大きめの乳房を露にする。 「い、やだ、…」 「すまないな、三鈴。お前を私にくれ…」  少しだけ三鈴は抵抗する。が、次第に力が入らなくなる。乳房に触れるギョヌの指が、悔しいかな心地がよい。ここが彼女の好いところなのだろうか。  誰もいない人里離れた夕方にて。二人は交わり続けた。 「郡守さま、呪術を終わりました。本当にこれで宜しいのですね?」  件の霊媒師の男はとある儀式を終え、汗をぬぐっている。 「ああ、息子を、この家を守るためだ。この倭国の娘には犠牲になって貰わねば」 「はい。まさかギョヌ殿に死相が見えてきたとは私も予想だにしておりませんでした…。あの娘の生気を彼に移す呪術は少し骨が折れましたが。次第に効果が出るでしょう」  ご苦労であった、と郡守は大金を手渡す。 「ミミよ、お前との大事な息子だ。私が必ず守る」  郡守は切なそうに、それでいて一仕事終えたような安堵の表情で呟いた。 第三話・終
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