第六話・呪詛

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「父ちゃんは、もう少し落ち着いてからにしろと言ってくれるけど、母ちゃんが…。店のものに限らずあれに触るなこれに触るなって、キリキリしていて…」 「……」  先日に、三鈴を連れて行っても良いなどと、娘を突き放すような言葉を自分に漏らした母親。詳しい事情は語られずとも、病の事もあってか関係が宜しくないのは明確である。  想い人とはいえ、他所の家の事情に口を挟むのは憚られる。しかし、このままでは皆が酷であろう。  と、背後から石が飛んでくる。  とっさに三鈴の頭を押さえ込み、伏せたお陰で命中せずに済んだが。随分とこの土地の連中は投石が好きなようだ。 「石?な、何で…」 「顔を上げるな、当たるぞ」  既に刀を構えながら、ギョヌは立ち上がる。  あれ以来、彼は多方面より命を狙われることが増えた。  悪習を咎められた事を逆恨みする民衆。  継母の実家から仕向けられた刺客。  果ては、土地に駐在する清朝の軍人にまで。  その都度返り討ちにし、最悪相手の首まで斬り捨てる事もあり。  元々は頑健な体を持つも、次第に疲労が見えてきていた。  俺はこのまま弱っていくのか…?とはいえ、少しのんびりし過ぎたかも知れぬ。  振り向くと、然程多くはないが竹槍や農具を構えた民衆。尚、今回は仏教や儒教でもない宗教の信者のような連中もいるようだ。 (東学党か?それにしては…) 「いっ!?」  不意に耳に入る、三鈴の悲鳴。  先程まで二人で座っていたベンチの影に身を隠していた三鈴の着物の襟足を掴み、引摺り出そうとする若い女が出てきた。 「この豚足娘が!あんたも見せしめだよ」  言いながら石を振り上げてきた。が、直ぐ様その手は血を吹き出しながらごろり、と落ちた。返り血が三鈴にふりかかる。  辺りにつんざく女の悲鳴。呆然とその血を見つめる三鈴。  その傍らにて。 「来い!貴様ら全員の四肢を斬り刻んでやる!!」  今し方、女の手を斬り捨てた血濡れ刀を民衆に向けながら、ギョヌが恫喝していた。  彼には今までのような遠慮は、もう無かった。  どっと押し寄せる群衆を文字通りに切り刻み、倒れてもなお、足にしがみつく人間を串刺しにする。刀一本では追い付かず、拳銃をも取り出し老若男女問わずに発砲。 「えいっ。あ、あっち行けっ!」
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