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三鈴が石を投げ返し非力ながら応戦する。が、素人が下手に攻撃するなとギョヌに遮られる。
…私は本当に、何も出来やしないんだ。
三鈴はもどかしかった。
「静まれ!」
日本語である。カチャカチャ、と次々に銃を構える音が聞こえる。実に良きタイミングと言おうか。日本軍が集まってきた。
「ギョヌ…」
軍の中には阿波野もいた。他の軍人共々に小銃を構えている。
「前にもこのような案件があったが、あくまでここは日本の管轄下だ。またもや暴動を起こし町を脅かすならば、この場で射殺する!まして、いくら相手が腕の立つ者とは言え、多勢に無勢とは、卑怯ではあるまいか!?」
朝鮮語の堪能な上層の軍人が言い放つ。民衆側は軽装備、向こうは新式の小銃。明らかに形勢は不利である。
「早いとこ終わってくれんかね、面倒くせえ…」
ぼそりと愚痴る阿波野にすかさず松野が肘鉄を食らわせていた。
確かに此方の分が悪すぎる…、と、忌々しげではあるが、その場で散り散りになる民衆。一度こういった事態となると、なかなかおさまりが効かなくなるのだが、今回はやけに素直である。
「何か、あいつら薄気味悪りぃな…」
阿波野がまたも呟く。
彼らがいわゆる新興宗教の一派であることに、暫し時間がかかった。
「感謝いたします…」
ギョヌが民衆を一括した大尉と呼ばれる壮年の軍人に深々と礼を述べ、三鈴も焦って頭を下げた。
世の中の動きに疎いとはいえ、ただ事ではないことはわかる。でも私には何一つ出来ないなんて。
もっとも女の力は弱いし、戦う事は無理でも他に出来ることはある筈なのに、私はとことん役立たず。
おまけに労咳にかかったせいで店番も止められて、家族にご飯を作ることも許されず。今の私は何のためにいるんだろう?母ちゃんの風当たりもどんどんきつくなっていくし、父ちゃんとの喧嘩も絶えないようだ。
若様も、きっと日本人の私と関わったばかりに売国奴扱いされて、あのように命を狙われいるんだ。
私は、疫病神だ。
周りを不幸にする、疫病神だ。
軍部での事情聴取が終わり、二人で帰路につく途中にて。
「ねえ、若様」
「何だ?」
「ごめんなさい…。私、やっぱり…」
……トッキ?
ギョヌはその場で無表情のまま固まった。
そこから少し離れた呉服屋の看板に隠れ、二人を眺める阿波野もいた。
「…ふうん」
第六話・終。
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