6.なぜ

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6.なぜ

 世界は、闇に落ちていた。けれど……視界を染めたのは黒だけではなかった。  発光した白が地面を、枯れ落ちた木々を、朽ちて廃屋となり果てた建造物を覆っていた。  ひゅるり、と舞うのは、粉雪。いや。これは。  胞子。 「カビが光ってる……」  学が驚愕したように呟く。  歩くたびに舞う胞子に顔をしかめながら、学は萌を振り向く。 「少し、歩こう」  差し出された手に萌はそっと手を添わせる。足を踏み出すと、胞子で足元が煙った。 「これじゃ生き残ることなんて、到底できないよね」 「そうだろうね。防護服がなければ……多分、俺たちもすぐ死ぬ」  冷えた声で学が言う。その彼の横顔を萌は見上げることができなかった。 「ねえ、訊いて、いい?」 「なに」  学の声は渇いている。さらさらと足元で崩れる粒子のような声だと思った。 「どうしてあの日、私のIDを受け取らなかったの。お母さんを助けたかったんでしょ」  学は答えない。ただ萌の手を引いて歩く。その歩幅もまた変わらない。 「私のIDを使えば、お母さんはこんなところに取り残されはしなかった」  無言が怖くて……萌は必死に口を開く。  訊かない方がいいことだとわかっていても、どうしても訊かずにいられなかった。 「私は……もういいって思ってたのに。どうして」  どうしてあなたは、私を踏み台にしなかったの。 「やっぱり、気づいていたんだね」
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