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言の葉
「――世の中に たえて桜の なかりせば 春の心は のどけからまし――六歌仙と称される和歌の名人の一人、在原業平により詠まれた歌です。世の中に桜というものが全くなかったとしたら、春における人の心はどれほどのどかであろうか――そんな、儚く散りゆく美しき花への業平の深い想いが窺えるようです」
京都市内の公立中学――その二階に在する、三年五組の教室にて。
そう、淀みない口調で説明をする丸眼鏡の男性教師。五限目という、恐らくは最も睡魔に襲われる生徒が多いであろう時間――そして、それは僕も例外ではなく。
だけど、今は――厳密には、この先生の授業はどうしてかほとんど眠くなることもなく。と言うのも――彼の声音や口調には、自然と耳を傾けてしまう不思議な魅力があって。
そして、そんな彼から紡がれる言葉――とりわけ、今日の言の葉はいっそう僕の心へ深く沁み込んでいて。
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