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物語にするのもおこがましいほど至って平凡な学生生活を送って来た私は地方の中小企業に就職して事務員の仕事をしていた。 上京して華やかな女子大生活を送って大企業に就職。そしてエリート、イケメン、高身長の旦那様を見つけて寿退社。そして子供は女の子と男の子の二人を生んでタワマンで幸せな人生を送るんだ。 そう意気込んでいた時期が私にもありました。でも現実はパソコンとにらめっこをして後輩に呼ばれて、そのまま面倒な仕事を押し付けられ、押し付けた張本人は定時退社。やることが終わらない私は残業して残っていると、上司から仕事が遅いと怒られる中間管理職である。 どーすれば良いのさ!あんまり後輩を叱りつけるとパワハラだって言われるしさ。かといって残っている仕事を残しておくわけにも行かないし。私だって残業代が欲しくて残ってるんじゃないのよ。中間管理職の苦悩を分かってくれ。 そんな日々の生活に悩んでいる私の楽しみと言えば転生系の漫画を読み漁ることだった。 私のような普通の人間がお金持ちで華やかな悪役お嬢様に転生して学園生活を送っていく。だけど漫画のストーリー通り進むのではなく、抗いながら自分の暮らしやすいように物語を進めていく姿には憧れしかない。 「はぁ、やっぱり漫画はこういうものに限るよね」 漫画片手にビールを飲みながらスルメを食べているような私には縁のない世界である。でも縁がないからこそ憧れの存在になるのだ。 漫画のページをめくりビールの缶を持ち上げると中身が無くなっていることに気付く。 「漫画のお供が無くなっては話にならぬ」 私はベットから起き上がると冷蔵庫へ一直線に向かう。しかし扉を開けて目の前の光景に愕然とした。 「マジか」 いつもはビールのストックで一杯の冷蔵庫なのだが、今日に限っては1本もない。
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