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オフィスの入っているビルに入り、エレベーターのボタンを押す。
次々と私の後ろに人が着き、到着する頃には10人以上の列が出来ていた。
ぞろぞろとエレベーターに乗り込むと、私は壁際に押し込まれる。
く、苦しい⋯。
どうにか鞄を胸の前に抱えて隙間を作る。
これが日常だから仕方ない。
「紗希!」
げっ、この声はまさか⋯。
こんな密室で私を呼ぶ男の声。
私の嫌いなヤツの声。
その声の主は、あろうことかこんなに密集する人を押し分けて私の前に来る。
押された人は怪訝な目でその男を見ていた。
「紗希、おはよ」
そんな周囲の目を気にせずに、私にニコリと笑って挨拶をする男、月嶋海翔は同じ部署の同期のモテ男。
キリッとした整えられた眉に切れ長の目、整った鼻筋に薄い唇。
さらには茶髪の髪を整えていて、まるで絵本から出てきた王子様みたいな風貌だ。
そんな海翔は、何かと私に絡んでくる。
何かあれば私をからかってくるのだ。
真面目な話をしていてもそう。
その場の雰囲気は海翔の一声で変わることもある。
もちろん真面目な時は真面目だし、的確なアドバイスを周りにくれることも多々ある。
海翔も後輩から頼りにされてる人だ。
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