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次の日、大勢の人がやって来て、
家の中にあったものを全部持っていかれた。
ボクは、ただじっとそれを見ていた。
「大家さん、この猫はどうしましょう?」
「あの子、猫なんか飼ってたのかい?
困るねぇ、ちゃんと連れていってくれないと……」
ボクは大家さんに持ち上げられ、
どこかに連れて行かれようとする。
イヤだ! ボクはここにいるんだ!
「ちょっと、暴れるんじゃないよ!」
「あの、すみません……」
聞き慣れない声がした。男の声だった。
「ここに、住んでた人は……?」
「友達かい? 昨日引っ越したよ。
友達なら、引越し先くらい聞いているだろう?」
そうだ、セリはどこに行ったんだろう?
この人なら、何か知っているのかな?
「いや、まあ、その……。ん? その猫は……?」
「置いてっちまったんだよ。まったく、困るねぇ。確かに、家財は後で
引き取るとは言っていたけど、ペットは連れていってもらわないと……。
仕方ないから、保健所に引き取ってもらうしかないね」
えーーーーーーーーーー!!
ヤダヤダヤダヤダ!!
「あの、そいつ、俺が引き取りましょうか?」
「そうかい? そうしてもらえると助かるよ」
ほっ……。
とりあえず、保健所は免れた……。
でも、この人、セリの友達なのかな……?
たしかに、ちょっとだけセリの匂いがするし……。
ボクは、この人の家に連れてこられた。
セリの家と比べると、すごく大きな家だった。
「よし、今日からここが、おまえの家だぞ。
名前は確か……凛太郎だったな?」
ボクのこと、セリから聞いていたのかな?
「俺は楓真だ。ふ・う・ま、覚えたか?」
楓真は、ボクを下ろすとゴハンをくれた。
やったー。おなかがすいてたんだ。
いただきまーす。
「榎本が帰ってくるまで、俺がご主人様だぞ」
ボクが食べている間、楓真はボクをじっと見ながら話しかけてきた。
榎本って、セリのこと?
え……?
セリは、帰ってくるの……?
本当に?
ゴハンを食べ終えると、楓真はボクを抱き抱えた。
「あいつは絶対に、治って帰ってくるさ……」
楓真は、ボクの体をぎゅーっとしてきた。
って、ちょっと……。
く、くるし……苦しいって!!
バリッ!
ボクは、楓真の顔を、思いっきり引っ掻いてやった。
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