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プロローグ ~はじまりの階段転落イベント~
―― きゃあああああああっ!
女生徒の悲鳴が大階段に響き渡った。
続いて、ひとが転げ落ちる音と、混乱した生徒たちのざわめき。
シャングリラ王国唯一の魔法学園、エントランスホール ―― 普段は生徒たちで賑わうこの場所はいま、緊張に包まれている。
ホールの大階段から落ちたのは、普段から対立が噂されているふたり。
公爵令嬢ヴェロニカ・ヴィンターコリンズと、子爵令嬢アナンナ・リスベルだ。
ヴェロニカは才色兼備のほまれも高く、名実ともに貴族令嬢たちのトップに立つ生徒である。
だが近年では、アナンナを目の敵にしてなにかと嫌がらせを仕掛けているという噂もあった。
その噂が信憑性を持っているのは、ヴェロニカの婚約者でかつ生徒会長でもある第三王子が 『光の聖女』 候補のアナンナになにかと目をかけ、親密さを周囲に見せつけているからである ――
これに関して、
浮気はせめてバレないようにコッソリやれよ。
と評する生徒もいれば
いやいや浮気なんかする時点でちょんぎればいいんだよ。
と過激な意見を出す生徒もおり、また、
婚約者のいる男に手を出すなんてどんだけビッチなん!?
とアナンナのほうを非難する生徒もいて、つまりは ――
アナンナは好かれていなかったが、ヴェロニカがアナンナに嫌がらせをしているのもまた、当然の事実として受け止められていた。
だから、アナンナが倒れたヴェロニカのうえに乗っかったまま泣き出したときには、それをみなが信じたのだ。
「うっううううっ…… ヴェ、ヴェロニカさんがわざとしたんじゃないとは思うんですけどぉ、でもぉ、いきなり突き落とされたんですぅ…… 」
自業自得、とつぶやく声があちこちからもれた。
けれど ――
―― 誰も、気づかなかった。
ヴェロニカが、目の前で階段から落ちかけたアナンナを助けようとして一緒に落ちてしまったことに。
―― 誰も、知らなかった。
見た目も学業成績も完璧なヴェロニカが、単なる不器用で生真面目な、善意の塊のような少女であることを。
ヴェロニカは、アナンナの下敷きになったまま、完全に意識を失っていた ――
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