3人が本棚に入れています
本棚に追加
──と言えたら風情もあっただろうが。
歴史文化総合研究所・主任研究員の朝見瑠璃花と助手の増渕公平は研究室にいた。
「窓のすぐ近くに桜があるんだから、『桜の下』と言ってもさしつかえないだろう」
「急にどうしたんです?」
窓の外を睨みつけた瑠璃花に、公平は目を瞬かせた。
「いや、言っておかないといけないような気がしてね。私だって、花びらが舞う中で盃を傾けたほうが良いに決まってる」
「せっかくの花見ですもんね」
公平は苦笑した。
瑠璃花の不満もわからないではない。彼女の性質ならば、こんな殺風景な場所よりも桜の下で花見酒をしたいだろうから。ただし花粉症でなければ、の話だが。
「主任の気持ちはわかりますけど、今は場所にこだわるよりも、見事な月と夜桜を楽しんだほうが良いような気がしますよ。ほら、昨日は曇り空でしたけど、今日は星も見えますし」
「……まぁ、そうだね」
しぶしぶ頷いた瑠璃花は指先で持っていたお猪口を軽く揺らし、一気に呑み干した。
最初のコメントを投稿しよう!