飲み会

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 尊(たける)は今日、大学の卒業式を迎えた。色々あった4年間だけど、今日終わった。来月からは新社会人として歩む。だけど、この4年間の日々は何よりの宝物になりそうだ。  尊は友人と帰り道を歩いていた。彼らは大学で初めて出会った。最初はなかなか仲良くなれなかったけど、終わってみれば昔からの友人のように仲良くなれた。 「はぁ、終わった終わった」 「楽しい4年間だったけど、今日で終わりか」  横で歩いている剛志(たけし)も来月から新社会人だ。実家の両親もとても喜んだという。そしていつか、家族を支えられるようになりたい。それが息子の使命だと思っている。 「これからはみんな、それぞれの道を歩いていくのか」  尊は寂しそうな表情だ。もうすぐみんなと別れてしまう。この大学には行く必要がなくなる。当たり前のようだった日々がなくなっていく。そして、思い出になっていく。 「いよいよ独り立ちだね。頑張っていかないと」 「そうだな」  ふと、猛は思った。彼らはどんな大学生活を送ったんだろう。きっと、いい大学生活だったんだろうか? それとも、大変だったんだろうか? 特に4年生の時の卒業論文は大変だった。就職活動もあったし、本当にうまくいくんだろうか不安だった。だけど、それを乗り越えて、卒業、そして就職までこぎつけた。 「大学生活、どうだった?」 「大変だったけど、いい日々だったと思うよ」  尊はとてもいい日々だと思っている。だけど、なりたかった教員になれなかったから、心残りはある。だけど、会社員として就職できた。 「ふーん」 「剛志は来月から教員だね」  剛志は来月から小学校の教員だ。だが、残念だと思う事もある。尊と一緒に教員になれなかったからだ。残念だけど、猛の分も頑張っていかないと。 「ああ」 「僕も教員になりたかったんだけどね。自分は向いてないと感じたから、諦めたよ。結局、普通の会社員だよ。ちょっと悔いの残る日々だったよ」  尊は教員になりたかった。だけど、自分には教える力がなかったため、諦めざるを得なかった。自分は無謀な夢を持ってしまったんだと後悔した。そして、自分に合った企業に就職した。それに後悔は全くない。 「だけど、そんなのもいいんじゃないかな」 「でも・・・」  尊は後悔した。子供の頃からの夢だったのに。 「後悔後先立たずだよ」 「そうだね」  その時、智哉(ともや)が肩を叩いた。知也も尊と同じく会社員になる。 「でも、頑張ってきたからいいじゃないか。この4年間は何よりの財産だと思わないと」 「ああ。この4年間でいろいろ学んで、成長できた。この4年間をこれからの日々に生かしていかないとね」  智哉は尊を励ましている。これから色んな事を経験するかもしれないけど、この4年間がきっと大きな財産になってくるはずだから、頑張っていこう。 「うん。きっとこの4年間が、いつの日か誇れるように頑張らないと」 「さて、来月から新社会人か。今日でこの大学とはお別れだね」 「うん」  4人は今日から別々の道だ。残念だけど、別れを乗り越えて人は強くなる。だから、別れを乗り越えないと。  と、尊は思った。今日の夜は近くの焼き鳥屋で飲み会を開こう。そして、4年間の思い出を語り合い、打ち上げパーティーにしよう。 「そうだ、今夜はみんなで飲み会しない? 4年間の大学生活、お疲れ様でしたって感じで」 「いいね! やろうよ!」  みんなも乗り気だ。今日で大学とお別れなんだから、大学での4年間お疲れ様でしたの意味も込めて、今日は飲み会に行こう。 「うん! じゃあ、6時半にあの焼き鳥屋ね」 「ああ」  4人は、近くの焼き鳥屋で飲む事にした。午後6時半前に、その焼き鳥屋の前に集合だ。  午後6時20分ごろ、尊は約束の焼き鳥屋の前にいた。そこに3人はいない。だけど、次第に来るだろう。約束したのだから。 「まだ来ないのかな?」  と、そこに剛志がやって来た。スーツだった剛志は私服に着替えている。 「お待たせ!」 「おー、来たか」  尊は喜んだ。剛志が来てくれて、嬉しかった。来てくれないんじゃないかと思っていた。 「うん」  その次にやって来たのは智哉と浩美(ひろみ)だ。智哉も私服だ。 「今日は飲めると聞いて」  浩美は笑みを浮かべている。今日は最初で最後のみんなとの飲み会だ。思う存分楽しもう。 「今日は楽しみか?」 「うん」  尊は店内に入った。4人のテーブル席がないか聞こうと思った。 「すいません、4人ですけど」 「どうぞ」  どうやらあったようだ。尊はほっとして、3人に連絡した。すると、3人は尊についてきた。  店員は開いているテーブル席を案内した。 「こちらでございます」  4人は席に座った。今日1日の疲れが取れる。 「本日はご来店ありがとうございます。お先にお飲み物はどうなさいますか?」 「とりあえず生中で」  尊は何回か居酒屋に行った事があるが、だいたい最初は生中だ。 「俺も」 「僕も」 「私も」  みんなも生中なのか。気が合うじゃないか? 「生中4本ですね。かしこまりました」  店員は厨房に向かった。その間、4人は楽しみにしていた。もうすぐみんなで飲めるからだ。  程なくして、店員が4本の生中をもってやって来た。 「お待たせしました、生中です」  すぐに4人は生中のジョッキを手に取り、乾杯の構えを取った。 「それでは、4年間お疲れ様でしたー! カンパーイ!」 「カンパーイ!」  そして、4人は飲み始めた。4年間色々あったけど、みんないい思い出だ。来月からみんな、それぞれの道だ。 「来月から工場で働くんだ。力仕事だけど、頑張っていくよ」  智哉は来月から工場で働く。力仕事は不安だけど、ケガのないように頑張っていきたいな。そして、いい女と巡り合い、結婚し、子供をもうけたいな。 「本当? 頑張ってね」 「ああ」  剛志は大好きな美幸(みゆき)の事を考えていた。数年前から交際を続けている大学の同僚だ。美雪も大学卒業後は教員になる予定だ。 「俺は、美幸との幸せな生活を続けつつ、会社員で頑張っていくよ」 「幸せにね」 「ああ」  と、尊は思った。結婚式には僕らも誘ってほしいな。だって、大学の友達だから。僕らも門出を祝いたいよ。 「もうすぐ結婚する事になるかもしれないけど、結婚式にはみんな来てね」 「もちろんさ!」  智哉はワクワクした。そして、自分もいつかいい女と結婚して、結婚式を挙げたいな。 「早く結婚式、見たいね」 「本当? じゃあ、プロポーズを早めちゃおうかな?」 「いいじゃない」  その頃、尊は考えていた。4年間、苦しい事がいっぱいあったけど、どれもこれもいい思い出だ。そして、4年間で得た教訓を胸に、新しい日々へと羽ばたいていくのだ。 「今日で大学とお別れ。そして新しい日々だけど、これからもよろしくね!」 「ああ」  4人は決意した。明日から離れ離れになり、会う機会が少なくなるだろう。だけど、僕らは大学時代の友達だ。だから、これからも一緒にいよう。電話などでやり取りしたり、一緒に飲み会を開いたり、交流を深めていこう。 「当たり前じゃないか! 友だちだろ?」 「うん」  今日で4年間の大学生活は終わる。だけど、この4年間で築いた友情は終わらない。
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