15.突然のヒート

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昨日、シャチは駅まで歩いて電車で帰ると言ったけど。 それはあんまりだと思った俺は自分のチャリを貸した。俺が明日電車で行って、学校で返してもらえばいいから。 また痴漢に遭うかもしれないが、か弱い女性が餌食になるより俺が標的になって犯人を捕まえた方が、世のためになるしな…… とか色々、思っていたんだけど。 (身体が熱ィ……) なんと今朝、突然ヒートがキてしまったらしい。来週辺りの予定だったのに。 ……もしかして最近シャチと、アルファと一緒にいたからだろうか。 昨日、本当は泊まっても良かった。俺がシャチを引き留めた。 朝早く帰ればいいだろって。なんなら俺がチャリで家まで送ってってやるから。 おまえ抑制剤飲んでんだから、一晩俺と一緒でも大丈夫だろって。 なんであんなこと言っちまったんだろう。 きっと俺はどうかしてたんだ。 案の定、シャチは眉を八の字に下げて少し困った顔をした。 歳下のくせに、見た目ヤンキーのくせに、『万が一があったらヤバいんで』ってオトナのようなことを言って、大人しく帰って行った。 俺が言うのもなんだけど……俺は、オメガだぞ? あいつ、俺に泊まってけって言われてラッキーだとか、タダでヤれるチャンスだとか、微塵も思わなかったのかな……。 ただ、困らせただけなのかな……。 ハッ だ、ダメだダメだ! さっきから何を考えてんだよ、俺は! シャチはそんな最低なヤツじゃねぇのに! そんなこと考える俺の方がよっぽど最低じゃねーか!! 昨日はきっと、ヒートが近かったから。 だからそういう気持ちになったんだ。 あいつに、アルファに、抱かれたいって…… くそっ! こんなバース、大嫌いなのに! 「ちくしょ……」 快楽に抗えない自分が嫌だ。 ヒートが起きれば、無理やりでも起こされちまえば、俺は相手がどんなアルファだろうと簡単に股を開く。 それは既に二年前に実証済みだった。 だから嫌なんだ、オメガなんて。 ヒート中のオメガは、人間じゃなくて色狂いのケモノだって、蔑まれて当然だ。だって本当にそうなんだから。 俺はそんな自分が嫌で嫌でたまらない。 たまらない、のに……。 「うっ……はぁ、あ……ッ」 薄い布団の中で、下半身をゴソゴソとまさぐる手が止まらない。 ちんこからもケツからもわけわかんねー液体がトロトロ溢れてきて、でもそれを絡め取りながら性器を強く擦ると、目眩がするほど気持ちいい。 ああもう、クソッタレ!! 今はヨくても、このままコレを続ければイッてもイッても数日間は治まらなくて、そのうち地獄みてーになるのに!! 「ハァッハァッ、や、だ……うぅっ」 薬、クスリを飲まなきゃ。 もうすぐ母親が帰ってくる。こんな俺の姿を見せたくない。 両親はベータだから、オメガのことにそこまで詳しくない。特に母は俺がオメガだと分かった時、酷くショックを受けていたようだった。  父さんも、もういないのに……。 親戚中から『しっかり者で安心』だって言われて頼りにしていた一人息子が、まさか世間から白い目で見られるオメガ男性だったなんて、嫌だよな。ショックだよな。 母はあまり俺と顔を合わせたくないのか、夜勤を増やした。それでも飯を作ってくれたり、普通の生活をさせてくれることには感謝しかない。 「ハァ、ハァ……ッ」 俺がもしアルファだったら、今も自慢の息子のままでいられたのかな……。 アルファだったら…… アルファ……は、シャチだ。 ──ああ。 めちゃくちゃにされてぇ──。 あのでけー身体で押し潰されるように上に乗っかられて、ケツが捲れるくらい激しく奥まで、ゴリッゴリに突いてもらいてぇー。 あいつ、チンコデカそうだもんな。 ナカに挿れただけで気持ちヨさそう。 くそっ、妄想でナカを弄る手が止まらねぇ……! シャチはそんなことしねぇのに。 鮫島先輩じゃ、ねぇんだから。 「ハアッ……あ、あん、あぅ……」 ああでも、あんなクソ野郎のチンコでもいいから今は挿れて欲しいと思ってしまう。 最低野郎……本当に俺は最低な野郎だ。 『勇魚センパイは、自覚がないですね』 『自分がカッコイイっていう、自覚』 ごめんな、シャチ。 本当の俺は、カッコよくなんかねぇんだ。 そんな自分になりたくて、憧れて、そう振舞っているだけなんだ。 こんな情けない俺の姿を見たら、おまえはどう思うかな……。 ゲンメツして、また少し困った顔をして、黙って俺の前から去っていくんだろうか。 (いやだ……シャチ) 涙が止まらない。 俺なんかもう、このままこの世から消えちまえばいいのに……。 ピンポーン…… 「……ぇ?」 玄関の、インターホンが鳴った。
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