16.オメガの母親

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 初めて勇魚センパイに会った時。  おれのうんめいのひとだ、と思った。    『運命の番』とかって話じゃない。  ただ、ずっと一緒にいたいひと。  そばにいて、離したくないひと。  ――大事なひと。 * 「なーシャチ、お前の母親って男のオメガなんだろ! うちの母ちゃんがお前は変態から生まれたんだって言ってたぞ! やーい、ヘンタイ、ヘンタイ!」  そんな風にからかわれるのは、もう日常茶飯事。  言葉の暴力に対して、俺は肉体的な暴力でお返しするものだから、最終的に俺が悪いってことにされるのも、上に同じ。  殴った理由を、そいつが自分の母親を悪く言ったからだってどんだけ訴えても、『そりゃ、男のオメガだから』って。  そう言われるのは当たり前、って空気。相手は御咎めなしで、俺ばかりが罰を食らう。  そのうち、俺は傷付かなくなった。  ただ言われっぱなしはムカつくから、身体的に痛めつけてお返ししてやろうって、更に強く思うようになった。  ときどき『やるなら言葉で返せよ!』って文句言われたけど、俺は、どうしてもうまい言葉がすぐ出てこないから……。  殴られるのが嫌なら、最初から言わなきゃいいだろ。  無言でそう訴えた。  そのうち身体が大きくなるにつれて、同級生からは何も言われなくなった。 * 「だからってね、毎回やりすぎなのよアンタ。余計に方々から恨み買いまくってるじゃないの」  呆れたように言いながら、額にできた傷の手当をしてくれているのは、父の愛人のひとり。女性のオメガで、名前は海月(くらげ)さん。  だけど本人は『くらげじゃなくてミツキって呼べ!』ってウルサイ。 「……最初に絡んできたのはあっちだし。殴ってきたのもあっちが先。俺は同じ数だけやり返しただけ」 「パワーが違うのよ、パワーが! アルファでしょ、アンタ」 「……まだ、バース分かってない」 「見ただけで分かるっつーの! 13歳でその体格、父親はアルファ、母親はオメガ。アルファが生まれる確率が一番高い組み合わせでしょ」 「……知らねーし」  俺の母親は男性オメガ。それが原因で、今まで何度も陰口やら言葉の暴力を浴びせられてきた。  会ったことはない。俺を産んだときに亡くなったらしいから。  俺を産んでくれたことは感謝してる。  してるけど……。  なんでだろ。  素直にアリガトウゴザイマスって、言う気になれないのは……。 *  14歳になり、学校で一斉にバースの検査を受けた。   俺の第二次性は海月さんが言ったとおり、アルファだった。なんとなくそうだろうな、って自分でも分かってた。  中学生になったらさすがにもう俺を男オメガから生まれた奴、って正面からからかってくるような奴はいない。  幼い頃、俺にそう言ってきた奴らは、俺がアルファだって判明するとコソコソして、なるべく俺の視界に入らないようにしていた。  昔からかってゴメン、って謝ってくる奴までいた。俺は殴り返していたからおあいこなのに。  そのとき同じクラスに、オメガだって判明した男子がいた。  そいつは女子みたいに可愛い顔をしていたから、検査を受ける前からあいつはオメガじゃないか、って陰で言われたりもしていた。で、実際にそうだったらしい。風の噂だ。  彼はその結果にひどいショックを受けたようで、それから学校に来なくなった。  
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