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ヒトを好きになるのって、本当に一瞬だ。大した理由もないのに。
『恋はするものじゃなくて落ちるものよ』って、海月さんの言った通りだった。
しかも、いつ落ちたのか自分でも気づかない。時間なんてカンケーない。
『……シャチ?』
初めて自分から会いに行ったとき、父と姉さん達以外からは呼ばれたことの無い下の名前を躊躇いもなく呼ばれたから?
屋上のテラスで、俺が正直に『勇魚センパイはすげーカッコイイからアルファだと思ってました』って言った時、すげー赤くなってたから?
そう言えばあのとき、俺が無意識に勇魚センパイの熱を測ろうとして額に触れたら、すげー静電気がキたんだっけ。
あれ、なんだったんだろ。やっぱり静電気かな。
勇魚センパイは体質的に(?)少しアルファがニガテなようで、俺といるせいで気分が悪いんじゃないかってカニセンパイが心配してた。
でも、俺が出来損ないのアルファだって正直にコクハクしたら、何故か安心した顔をしていた。
……アルファに対して、何か嫌な思い出があるのかもしれない。
アルファのことを『エラソーでゴーマンで金持ちを鼻にかけたコーマンチキ』って言ってたから、そういうイメージなんだろう。
アルファが全員がそういうヤツじゃないとは思うけど……すべて俺の父にはあてはまるから、否定出来ない。
同じアルファが嫌なことをして申し訳ないと思う反面、ゆるせない、と思った。
俺なら絶対に、勇魚センパイの嫌がることはしない。
俺は、自分がアルファ用の抑制剤を毎日飲んでることも報告した。
……少しでも勇魚センパイに、安心してもらいたくて。
『ホントだ、おまえ全然アルファの匂いしねーな』
そしたら不意に首筋に顔を近付けられて、匂いを嗅がれた。
『!?!?!?』
そのとき俺は、自分の心臓が壊れたんじゃないかって錯覚するくらい、ドキドキした。
首筋から耳、顔まで熱くなっているのが自分でも分かった。
なんだこれ? なんだこれ?? って、自分でもかなりコンランしてた。
だってこんな感情、知らなかったから。
勇魚センパイは俺の、アルファじゃない俺自身の匂いが嫌じゃなかったみたいで、
『おまえみたいなアルファだったら一緒にいても大丈夫かな』
って。
俺がそばにいても大丈夫だって、言ってくれたんだ。
めちゃくちゃ嬉しくて、その時ばかりは頷くんじゃなくて、自然に大きい声で返事ができた。
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