21.葛藤

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 ドアの向こうで勇魚センパイがヒートで苦しんでいるとき、俺はのんきに自転車の話をしていた。  でも、そこにいるはずなのに返事がないのがおかしいなって。  もしかしたら体調が悪いのかなって思った。 「勇魚センパイ、体調が悪いんですか?」  素直にそう聞いた。  そしたら、ドアの向こうで崩れ落ちるような音がしたから。 「勇魚センパイ! ここ開けてください!」  俺は近所迷惑にも関わらず、ガンガンとドアを叩いて開けるよう要求した。  でも、ダメだって。  今朝いきなりヒートがキたんだって勇魚センパイは言った。  だから帰ってくれって。  俺がアルファだから? 「俺、抑制剤飲んでるから多分大丈夫デス。絶対襲ったりしないから!」 きっとドアを開けた途端、俺に襲われる心配をしているんだろう。オメガなんだから、番でもないアルファを怖がるのはトーゼンだ。  でも俺はタブン、大丈夫だから。  熱に浮かされた勇魚センパイの姿を見ても、まあ……軽くボッキくらいはするだろうけど、我を忘れて襲うなんてことはしない。  それよりも。 「開けてくれないなら、ドア、蹴破りますよ」  今は勇魚センパイのヒートをどうにかする方が、大事だ。 勇魚センパイのオカーサンの帰りが遅いなら、今対処できるのは俺しかいない。 「もしくはリビングの窓を割って、中に入ります」  オメガのヒートの対処なら慣れてる。ダテに小さい頃からオメガ5人と暮らしてない。  もちろんドアや窓を壊したとて、弁償するのはうちの父だ。  好きなオメガのセンパイがヒートを起こして緊急事態だったと言えば、父はスグに対処してくれるだろう。  でも、結局俺がドアや窓を壊すことはなく、わりとあっさり目の前のドアは開けられた。ヨカッタ。 「勇魚センパイ!」 「シャチ……」  勇魚センパイの服装は乱れていて、何故か足元には布団が落ちていた。玄関まで被ってきていたらしい。  熱に浮かされているように顔は真っ赤で、目はトロンとしていて、はあはあと激しい呼吸は息が苦しそうだ。  もし俺が薬を飲んでいなかったら、部屋に充満しているであろう勇魚センパイのフェロモンの匂いと、扇情的なこの姿に、俺は一気に我を失くして玄関で襲っていたかもしれない。ヤバすぎ。  このときばかりは、毎日抑制剤を飲めと俺に命令した父に心から感謝した。  勇魚センパイは俺の姿を認めるなり、いきなり抱きついてきて……  俺の匂いを、嗅いだ。  すうーっと深呼吸の音が聴こえるくらい、深く。思いっきり。 「!?!?」    これには、自分は大丈夫だと豪語している俺でもさすがに慌てた。  勇魚センパイは、そんなに俺の匂いが好きなのかっていう嬉しさと。コレは勇魚センパイの意志じゃなくて、ヒートの熱に浮かされているだけなんだから、浮かれたらダメだっていう気持ちが半々。  正直、嬉しい気持ちの方が勝ってたけど。  でも、俺がしっかりしないと……! 「センパイ、薬どこ!?」  テンパりすぎて、苦手でへたくそな敬語を付けるのも忘れた。  すると勇魚センパイは、グリッと俺の脚に下半身を擦り付けてきた。  薄っぺらいパジャマからは固くなったモノの感触がハッキリと伝わり、下着の中からはヒワイな水音が聞こえた。  音の正体を想像して、思わず鼻の毛細血管が何本か切れそうになった。  そして勇魚センパイは、焦点の合わないトロンとした目つきで、俺にトンデモナイことを言ったのだ。 「どうでもいいだろ? 薬なんか。おまえのコレをブチ込んでくれたらすぐ治まるんだから、ヒートなんて。……なあ、今すぐヤろーぜ?」  あの、勇魚センパイが。  清らかな、って言ったらオカシイけど……普段は『そんなこと全然興味アリマセン』ってすましている顔は、どこにもなくて。  小さな赤い舌を見せつけて、ハアハアと色っぽく息を荒げて、大きな瞳は涙目で蕩けて今にもこぼれおちそうだ。 そして、固くなったチンコを俺のチンコに布越しに上下に擦り付けて、全身で俺を誘っていて…… 「勇魚センパイッ!!」  俺はありったけの理性を総動員して、勇魚センパイを引きはがした。
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