22.目覚めた後

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「あ、それそれ」 「え?」 「キミがどうしても離さなかった、桐生院君のシャツだよ」 「!?!?」  思わず壁にブン投げそうになって、でもシャツは何一つ悪くないから、ただ俺の手元でぐしゃぐしゃになった。  なんかいい匂いがすると思ったら……そうだ、これはシャチのニオイだ。 「ふふ、そんなに照れなくてもいいのに。恋人じゃなくても、かなりいい感じなんじゃないの?」 「え? いやその、あいつとは全然そういうんじゃなくて……」 「? じゃあ彼とはどういう関係?」 「どういう関係って……」  そう聞かれると、俺とシャチはどういう関係なんだろうか。 単なる同じ学校の先輩と後輩というには、なんだか距離が近い気がする。  でも知り合ったばかりだし、恋人じゃ絶対ねぇけどトモダチでもねぇし。 うーん……。 「よく……ワカリマセン」 「え~!?」  むしろなんでそんなに驚くんだよ。  シャチはただ不幸にも現場に居合わせて、付き添ってきただけなのに。 「なんか甘酸っぱい青春のニオイがする……」 「それ私も匂います、先生……!」 青春のニオイ? 俺、汗臭ぇのか? ……風呂入りてぇ。  先生と看護師は俺に背を向けた状態で、まだ二人でボソボソ話している。  ただし内容は丸聴こえだ。 「間黒先生、これって無自覚両片想いというやつですよね……!?」 「うんうん鈴木君、僕もそう思う」 「あのー、なんかよくワカリマセンけど、俺とシャチにはそういう、レンアイ感情は一切ない、です。アイツはすげーいい奴だから、目の前でヒート起こした俺を放っておけなかっただけですよ」 昨日は学校、遅刻しただろうな。 ヒートが開けたら、真っ先に謝りに行かないと…… それかもう、俺はアイツとはヘタに関わらない方がいいのかも。 引く手数多のアルファ様、だもんな。俺みたいなオメガが側にいていいワケない。  くっついてきたのは、アイツの方からだけど……。  まあ、それももう今後はなくなるだろう。  少し淋しいと思うのは、俺がそれなりにアイツのことを気に入っていたからだ。……あの、変わり者のアルファを。 「ええと、九条君のほうは桐生院君のことを好き、なのかな……?」  そんなこと、医者に答える必要あるか?  絶対に個人的な興味だろ。 「さあ……でも、アイツの匂いはなんか好きなんですよね、俺」  そんな意図が分かりきった質問に、馬鹿正直に答える俺もどうかしてると思うけど。 「匂いは好き、かぁ~……」 「うぅ、焦れったい……!」  何を悶えてんだよ、この医者とナースは。 「あの、もういいですか? ちょっと1人になりたいっつーか……」 「あ! 長くなってごめんね。あと顔と手は大丈夫? 点滴に痛み止めも入れてるんだけど、今は痛くない?」 「え? あぁ」 言われて思い出した。そういや自分の顔、思いっきり殴ったなって。 右頬にはご丁寧に大きなガーゼが、右手には包帯が巻いてあった。  自分でやったことだから完全に自業自得だけど、歯は折れてなくて良かった。
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