職業体験「園芸仕事」(ヒマワリ畑にて)

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高校の正門から続く遊歩道をひたすら歩く。汗でまとわりつく制服のスカートが不愉快だ。今日はもう一学期の終業式なのに、帰ろうとしたら職業体験がまだだろうと担任に呼び止められてしまった。強制される職業体験、しかも今から「園芸仕事」に行かないといけないなんてかなり億劫。だから、やる気の無い制服姿はせめてもの不満の意思表示だ。 「暑いなぁ。教頭はどこよ……?」 遊歩道は丘の上を一直線に伸びていて、丘のすぐ下は見渡す限りのヒマワリ畑。この土地を所有している農家というのが教頭の実家で、だからなのか教頭が顧問をしている園芸部がいつもここの畑を手入れしている。 最近はヒマワリを利用して迷路も始めたらしいが、上から見ると経路がバレバレだ。 「おお、来たか藤田(ふじた)さん!こっちだよっ」 突然大ぶりなヒマワリがこっちに話しかけてきた。いや、よく見たら麦わら帽子を被った白髪頭の教頭。河本(こうもと)先生だ。そばに園芸部らしき生徒が何人かいて、ジャージに軍手姿でバタバタと部活中だった。 「……どうも。えっと、職業体験にきました」 職業は『園芸』を選択したことになってるらしいが、実のところは園芸部の手伝いみたいなものらしい。正直こんな体験、終業式を終えるまではやりすごせるとばかり思っていたのに。 だって夏休み明けには引っ越して転校するから。不仲で束縛体質な両親が、ついに離婚したから。 「都会に引っ越しちゃう前に、ここのヒマワリを見ていってよ」 日焼けした浅黒い肌の河本先生は、そういって豪快に笑った。そんなのいいよとため息をついた私に、河本先生は渡そうとしていたシャベルを引っ込めた。 「園芸部と一緒に追肥でもしてもらおうかと思ったけど。制服だから無理か」 「いえ構いませんよ?もう着ない服なので」 どうせ帰ったら捨てるだけだし。そう思ってシャベルを受け取ろうとするも、河本先生はウエストポーチから変わった形のハサミをとりだして私に渡してくる。
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