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「これ、園芸バサミね。早咲きのヒマワリがもう散りはじめてるから、その花の根元をこれで切ってくれるかな?」
「花を切っちゃうんですか?種になるんじゃ?」
中心部分は確か種になるはずだから、勿体ない気がするんだけど。
「そうしないとこれから咲く花の栄養を種作りにとられてしまうからね。種をつくる花はもう少し後になってから確保するよ」
「じゃあ切った花は……?」
袋に入れるなら捨てるってことか。
「あっちの麻袋に確保してくれる?」
「麻袋?」
「そう。間違って捨てられたら困るし。花は乾燥させて、あとで栞にするから」
「栞に?」
「押し花の栞を作って迷路の参加賞にするんだよ。ああ、これ見本なんだけど、藤田さんにあげる。今日の記念だ」
栞に加工されたヒマワリの押し花は、思いのほか鮮明な色を保っている。これを使ったら読書も楽しそうだ。
「ありがとうございます」
「受付にまだたくさんあるし、いいんだよ。じゃあ僕は迷路じゃないほうの畑に水やってくるから。よろしくね藤田さん」
首にかけたタオルで汗を拭いながら、河本先生はホースのある水場のほうへと歩いて行った。
絶え間なく降ってくる太陽光にしばしボーッとしてしまったけど。ふとハサミの感触を思い出して慌てて仕事にとりかかった。
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