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「すみません、私の分まで」
とは言いつつ、水筒はとっくに空っぽだったのでありがたい。
「えっと、アイスコーヒーにアイスコーヒーに……?って、こっちの袋全部アイスコーヒーじゃないですかっ?」
「暑い日にはこれだろ?もちろんブラックだからさっぱりするよ」
「苦いだけじゃないですか。こんなのよく飲めますよね」
「大人の味だよ。でもまあ、苦手ならもう片方の袋にはお茶とかフルーツジュースも入ってるから好きなの飲みなさい」
真っ先にフルーツジュースが目に入ったので、そのままそれを選択して、もう飲んでしまう。作業後のジュースは冷たくて甘くて爽快だった。それから大袋を抱えてテントへ届けると、遅れてやってきた河本先生が小さく咳払いした。
「さて。泥だらけになっちゃって悪かったけど。これで職業体験は終わりだ。しっかりと報告書に書いて、転校先の学校にも申し送りするからね」
そうだった。家に帰れば現実が私を待ちわびている。そうしたら私は都会へと連れて行かれて。きっともうどこへも行けない。ここへも帰って来れない。
「今日は、ありがとうございました。職業体験なんて正直面倒だから直前までサボろうかと思ってましたけど。今日ここにこれて良かった。一生の思い出にします」
頭を深く下げるも、先生は難しそうな顔で唸っている。
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