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まもなく列車は小さな駅に停車した。レトロな駅舎を背に、遊歩道を10分くらい歩いたところで道が一気に開ける。一瞬黄色い光が地面から湧き出ているように錯覚したそこは……。
「わあっ」
「いいねぇ。やっぱり夏といえばヒマワリかな」
そこは小高い丘の麓にある畑らしく、一面のヒマワリが揃って太陽の方向を向いて咲き誇っていた。雲一つない青空とのコントラストがはっきりしていてキレイだ。
「自由に歩き回れるんだけど迷路コーナーはあっちだよ。そうだ、大人1人100円だけど出版社持ちだから安心してね」
「100円?前にも来たことあるんですか?」
「私は旅行ライターだからね」
なぜか得意げに言った添花さんと受付を済ませ、そのまま迷路のど真ん中をズンズン進んでいく。自分の背より高いヒマワリたちは近くで見ると迫力満点。
むせ返るような花の香りがまた夏らしさを感じて軽く目眩が襲ってくるが、すぐ隣で添花さんはちょこちょこ足を止めては生き生きと撮影を続けている。つま先立ちになってみたり、逆に地面にしゃがみこんだりしてカシャカシャと楽しそうだ。
「そうだ、キミも一緒に撮ってあげよう。あとで家に送ってあげるよ」
「結構です。俺より迷路を撮って仕事してください」
空っぽのカメラケースを担ぎながら制するが、添花さんは元気に笑って俺にカメラを向けてくる。
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