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「ここまでで結構実のある取材ができてるよ?」
「よくわかんないです。これじゃ、ただの散歩みたいじゃないですか?」
少し皮肉っぽく言ってしまったが、目の前の整った顔はなぜか輝きを増した。
「散歩かっ。そう思ってくれたんなら本望。私はキミにキミの散歩道を届けられたってことだね」
「は?」
「これからはキミもあちこち行ってみるといい。写真を撮って、地域の人とおしゃべりするの。一期一会を大事にね。それって楽しいだろ?」
「俺は……しばらく登校拒否してるし……」
もう家からは出られない。頭の中には堅くカーテンを引いた自分の部屋のイメージが浮かぶ。浮かんだのだが。
「キミは最初から自由だろ?今日だってこうして私のアシスタントを立派にこなしているじゃないか」
頭の中の真っ暗な部屋のカーテンが、一気に開いた。夏の眩しい日差しが俺を、勉強机を、写真立てを。ユニフォームを制服を、すべて爆ぜるような真っ白な光で包んでくる。
「別に一本道に固執しなくていいんだよ。好きに歩いたらいい。これはキミだけの散歩道だ」
どんよりした自分の部屋に、涼風が吹き込んだ気がした。ふと気づけばそこはもとの小高い丘。添花さんがまたしてもカメラをこちらに向けて、笑っている。
(だから、俺のことは撮らなくていいって)
そう言おうと思ったけど。
ファインダーを覗き込んでいる彼女が可愛くて。むしろ俺の方がその姿を見ていたくて、黙って被写体の一部に収まってしまった。
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