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「……待って! レオ様、待ってください!」
謁見の間から出ると、レオ様は鬼の形相のまま廊下を足早に歩きます。怒りと苛立ちが足音に全て現れてますよ、レオ様! 使用人も目をまんまるにしてます。
「本当にごめんなさい、私の噂のせいでレオ様にまで悪評が立つかもしれないなんて思いが至らず……」
「……違うだろ!」
あ、振り向いた。だから顔が怖いです。使用人に見せないで! モザイクモザイク!
とりあえず馬車で話そうと言って、レオ様と私は馬車に乗りました。うん、ここなら怖い顔を人に見られなくて済みますね。
「俺がいない間にコレットを呼び出すなんて……。アランが呼びに来てくれなかったらどうなっていたか」
確かに、あのままレオ様が来なければ、私は恐怖のあまり石にでもなっていたかもしれません。挙句の果てに婚約を見直さなければならない、だなんて。
隣にいた宰相さんも何だか私のことを睨んでいたし、渡る世間は敵で溢れていました。
私は私なりに婚約者としてのお仕事には真面目に取り組んできましたから、事実と異なる噂のせいで婚約破棄と言うのは悲しいです。
それにしても今日の国王陛下が怖すぎて、まだ手がブルブルしますね。同じ悪魔でも、レオ様の行動の裏にはうっすら優しさも見え隠れしていました。でも、今日の陛下のご様子は、私への温情は一ミリもなかったです。
途中でレオ様が来てくれて良かった。
「コレット」
レオ様が私に手を差し出します。ハンカチ……?
「泣いてるから」
あらら。私ったら陛下が怖すぎて、ポロポロ泣いてましたね。どうしましょう、手の震えも止まりません。
「早く拭け。ドレスが汚れる」
レオ様からハンカチを借りるのは二度目ですね。確か私がエリオット様への失恋のショックで倒れた時、レオ様が椅子の上に忘れていったハンカチを借りたのでした。
もしかしてあの時も、私が涙声だったからわざと置いていってくれたのかな。
そう思うと、何だか胸が締め付けられます。これまでレオ様に好きだ好きだと言われても、正直言って違和感しかなかったんです。でも、こうして陛下との謁見の場にまで突入して守ってくれて、自然とハンカチも差し出してくれる。
過去のレオ様の言葉や仕草一つ一つが、一本の線で繋がったような気がしました。
急に百で来たんじゃない。
レオ様の中では今まで少しずつ、一から順に積み上げてくれてたんだ。
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