第20話 ヒロインの得意技 ※マティアスside

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第20話 ヒロインの得意技 ※マティアスside

「ねえ、マティアス! あなたって、コレット様の事好きだったんじゃないの?諦めたの?」  こんな会話から始まった、乙女ゲーム『ムーンライト・プリンセス』のヒロイン、メイとの関係。一体この子はどれだけコレットを目の敵にしたら気が済むんだろう。  夏の休暇中にも関わらず学園の図書館で過ごしていると、いつもの場所でばったりヒロインに出くわしてしまった。  この子、レオのこと狙ってるんだよな?  僕のことも追い回してないか? 「マティアス、この休暇中が勝負だと思わない? コレット様はレオと頻繁には会えなくなるでしょう? その間に、コレット様に不安の種を色々と植え付ける予定なの。あの二人の間に亀裂を入れるのに協力して」 「……君は、そうまでしてレオを手に入れたいの?」  しまった。彼女の話なんて無視すればよかったのに、ついつい話に乗ってしまった。ヒロインはニヤリと笑みを浮かべる。 「当然でしょ。でも、私だけに責任を押し付けないでよね! 貴方だって、レオとコレット様を引き離したいのよね? 小さい頃からコレット様のこと好きだったんでしょ?」 「それはそうだけど、別にコレットを苦しめたいわけじゃないんだ。コレットがレオと結婚して幸せになれるなら、応援しようと思ってた……」 「マティアス! どんだけ偽善者なのよ! いい? レオと結ばれるべきは、ヒロインである私。悪役令嬢のコレット様に、幸せになる道なんてないの。どうしてもコレット様を幸せにしたいのなら、レオとコレット様を引き離して、貴方がコレット様を幸せにするしかないのよ」 「僕が……?」  聞いてあきれる。よくもこんなにスラスラと悪いセリフが出てくるものだ。僕の初恋までも利用するなんて。  ヒロインは隣の椅子に座り、上目遣いで僕を見た。元々小芝居の上手な人だなと思っていたけど、こういうちょっとした仕草に舞台女優っぽさを感じる。だから彼女の言うことは、嘘みたいなことも事実かのように聞こえるんだ。 「うちのお父様がね、宰相様と手を組もうとしているの。宰相様の後押しで、私をレオの新たに婚約者据えてもらえるようにね! 大丈夫、コレット様をレオから引き離せるわ」 「ちょっと……コレットとレオは、子供の頃から婚約してるんだよ? 何を考えているのか知らないけど、実際は難しいと思うよ」 「だから、宰相様を利用するって言ったでしょ。宰相様のご令息、知らない? 目が数字の『3』みたいな、すごいボーっとした感じの人なんだけど」 「そんな人、知らないよ……」 「宰相様は目が『3』の息子を次期宰相にしたいのよ。でも、コレット様のお兄様が優秀だから将来の宰相候補として期待されている。宰相様としては、それが面白くないわけ。だから、一緒にリード公爵家に一泡吹かせようていうところでうちのお父様と利害が一致してるのよ」  今、僕はものすごい話を聞いている気がする。  コレットに僕の想いが届くことを夢見たこともあったけど、決してコレットの不幸を願っているわけじゃない。  でも、もしヒロインの言う通りになったら?  僕に、コレットを幸せにするチャンスが巡ってきたとしたら?  コレットをレオに任せて指をくわえて見ているだけで、僕は後悔しないのか? 「レオ様とコレット様が婚約解消することに、あなたにとってのデメリットなんてないわよ! じゃあ、私の計画を説明するわね。階段落ちって知ってる? あの有名な蒲田……って貴方に言っても知らないか。まあいいや、それでね」  ヒロインの、悪魔のささやきが聞こえる。
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