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買い物に行こうと言いながら特に欲しいものもありませんね。マティアスと一緒に街をウロウロ散歩するだけになってしまいました。
レオ様とヒロインの出会いイベントの日に待ち合わせした噴水近くまで来ると、何だか懐かしい気持ちになりました。
よく考えればあの出会いイベント、ついこの前のお話なんですよね。それなのにメイ様のキャラが濃すぎて、あの日から何年も経ったような気すらしてきます。
こんな短期間の間に、私はエリオット様にフラれ、レオ様から好きだと言ってもらった。そして、私も自分の気持ちに気が付いた。
激動の十六歳ですよ。青春ですね。
前世では、十六歳の頃は何をやってましたっけ。確か、高校の帰り道の途中に新しくできたコンビニの前で、唐揚げを貪っていたと思います。
まあ、こんな話はどうでもいいですね。
どうでもいい話ばかり考えてしまうのは、私の不安の現れでしょうか。レオ様に全く会えない上に、マティアスの度重なる意味深発言。レオ様が私のことを好きだと言ってくれた気持ちは信じているのに、いつの間にか離れていく私たちの心の距離。
マティアスはすっかり黙りこくって、私たちの間には重苦しい空気が流れます。
そう言えば先ほどから私たち、噴水の周りを大きくグルグルと回っているだけなんですよね。噴水に近付くでもなく、離れるでもなく。噴水を見たいなら近くに寄ればいいのに、なぜマティアスはひたすらグルグルと円周上をエスコートするのかしら……。
あれ、もしや。
だんだん思い出してきましたよ。このグルグル円周をひたすら回る動き、覚えがあります。
ハンカチ落としですよね!
ハンカチ落としなら、この円の真ん中にいる人の背中にハンカチをこっそりと落とさなければいけませんよ。そう思って、ふと円の真ん中、噴水の方に目をやると。
「ん? あれは?」
「……コレット、見てしまった?」
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