1人が本棚に入れています
本棚に追加
孝臣は顔には出さないものの、恥ずかしさは耳に出た。
それに気付いてか気付かずか、先に後輩の方が沈黙を破った。
「……あ、えっと、も、もう夕方ですもんね。お腹空きましたよね。わたしもお腹空いちゃって、今日の晩ご飯どうしようかなぁって、あ、あはは」
早口で言った後輩は、どこか顔が青ざめているようにも見えた。
体調が悪いのだろうかと思った孝臣は、自分の鞄の中を漁る。
未開封のグミを見つけ、それを後輩に差し出す。
「何も食べないより、いいと思うから」
「……え?」
「腹が減ったら集中力も落ちるだろうし」
「で、でもこれ先輩のおやつじゃ……」
後輩は慌てたように言ってグミを受け取ろうとしない。
「嫌いなら、ほかのもあるけど」
「え、あ! いえ! 好きです! そのグミ、わたしも好きです!」
「じゃあどうぞ」
丁寧に両手を差し出した彼女の手に、孝臣はそっとグミの袋を置いた。
コンビニやスーパーで売っているフルーツ味のグミだ。孝臣が後輩に上げたのか、彼の最近のお気に入りであるグレープ味。
「あ、ありがとうございます! いただきます!」
今にも一気に食べ切ってしまいそうな勢いで袋を開ける後輩に、孝臣は静かに「晩ご飯が入るぐらいにした方がいいと思う」とだけ言って席を立った。
プリンターから吐き出された資料を手に取り、不備がないことを確認する。
定時に間に合った。
孝臣はそそくさと帰る支度をし、美味しそうにグミを食べている後輩に挨拶をして会社を出た。
最初のコメントを投稿しよう!