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「明日はちょっと車で遠出する?日帰りになるけど…気分転換に水族館とか行ってみる?」
「行きたいです!でも、本当に遠出ですね。運転、疲れませんか?」
オーナーは運転が上手いのか、それとも車の性能が良いのか、自分の父親の運転に比べるとずっと乗り心地が良い。ちなみにその父親が「唯の車にはもう二度と乗りたくない」と以前吐きそうな顔で言っていたので、多分親子で運転センスが無いのだろう。
「大丈夫。車の運転は割と好きだし、唯が隣に乗っていてくれたらどこまでも運転できるよ」と笑う。
ふと、オーナーの発言に「あ」と反応する。
「うん?」
「今、唯って」
ちゃん付けから呼び捨てにされ、昇格した気分でくすぐったい。
「うん。だから、俺の事も『オーナー』じゃなくて、来斗って呼んで欲しいな」
私の耳元で、オーナーは甘い声で囁く。
「嫌です」
「え?なんで?」
まさか拒否されるとは思っていなかったのか、抱きしめていた私を引き離し、顔を覗き込む。
「だって、秘密なんでしょう。サロンでも絶対名前で呼んでしまいそうです」と私は口を尖らす。
「あー……」と決まり悪そうな声を出したかと思えば、急にオーナーが立ち上がり後ろのベッドの縁に座った。
え、なんか不味い事に触れてしまったのかな。
オーナーの暗い表情が、急に何かを拒絶しているように思えた。
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