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「秘密の間はふたりっきりでも『オーナー』としか呼べませんよ。私それほど器用ではないですし。だけどバレてしまっても、ウチのサロンの人たちなら温かく見守ってくれるのではないでしょうか…」
私は座ったままオーナーの方へ向き、顔を覗き込んだ。
オーナーは私の頬をそっと撫でた後「はぁー……」と言ってベッドに倒れ込んだ。
あ、何か嫌な空気になった?
私はウザがられてしまった、やらかしたと思い、床に座り込んだまま俯いた。
でもこのままお付き合いを続けていくつもりなら、いつバレてしまっても良いと言ってもらえないと不安になる。
オーナーに大切にしてもらっている実感はあるけれど、実は本命や婚約者が別にいて、私は最初に感じた「日陰の女」的な立場なのではないかと勘繰ってしまう。
だって、以前お付き合いしていた方は…公表していたんですよね?
―――ポンポン、と布団を叩く音がした。
顔を上げるとオーナーが横向きに寝転んだまま自分の横の布団を叩き、おいでおいでと手招きしていた。
スン、と溢れ出そうな涙と鼻水を止め、オーナーの横に向かい合わせになるように寝転んだ。
オーナーは私の目尻の涙を指で拭き取り、軽く唇を重ねた。
「そうだね、俺の我儘だよね」
オーナーは優しい眼差しで私を見つめ、小さくため息をついた。
「すみません、オーナーを困らせるつもりはなかったんで…」
オーナーは人差し指で私の口を封じた。
「ごめんね。ちょっと嫌な気持ちにさせるかもしれないけど、聞いてくれるかな」
オーナーの悲しげな表情に聞くのが怖くなったが、私は小さく頷いた。
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