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元カノさんは辛かったんですね
8年前、まだメイクアップアーティストとしては実績が少なく収入が少なかった俺は、化粧品販売店を営む母親の力を借りてフェイシャルエステサロン経営を始めた。
とはいえ、店舗の物件まわり、機器の導入、エステセラピストの育成などサロンの開店準備はほとんど母親任せだったので、『経営者に採用された』ようなものだ。
セラピストは開業当時4人で、その中のひとりに山際夕夏という女性がいた。彼女は人懐っこく明るくて、よく働いてくれた。
同じ歳だったためか俺と気が合い、付き合うようになるまでさほど時間を必要としなかった。
特に他のセラピストに秘密にしたりせず、公認の中だと思っていたよ。
今でも信じたくはないが……それを良しと思わない仲間がいたらしい。
―――夕夏は人知れず嫌がらせを受けていた。
ロッカー内の私物や資料の紛失、私服の背面に醤油などの汚れの付着など、裏で地味な嫌がらせが続いていたと。
彼女が打ち明けてくれるまで俺は気がつかなかったし、彼女自身も誰からの嫌がらせなのか見当がつかなかったので報告しにくかったと言う。
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