出向することになりました

1/5

109人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ

出向することになりました

 付き合い始めて9ヶ月、それは突然の告知だった。 「ウチの事務を一旦辞めて、来月から唯の実家に近い小川店にエステセラピストとして出向してくれないかな」  小川店はウチの店と同様、フェイシャルエステサロンでオーナーの母親の店の傘下店だ。 「そこのセラピストが長期休暇を取りたいみたいで、人手を必要としているんだ」  最近の私の業務は主に事務で、エステの施術は週に1度程度。沢山のお客様を抱えるセラピストより、私が出向いた方が都合が良いのだろう。 「期間は1年を予定しているそうなんだけど……親店からの依頼だから断れなくて」とオーナーが私に頭を下げる。  親店と言えば、以前私が高級化粧水を過剰注文してしまった時にお世話になった。確かに断るのは…私自身も難しい。  私は今でも実家暮らしだが、親には「終業が遅くなる日は仲の良いセラピストの部屋に泊めてもらう」と嘘をついて、時々オーナーの部屋でお泊りをしていた。小川店に出向すると、それが難しくなってしまう。 「事務の仕事は俺でも出来る環境を唯が作ってくれたからきっと大丈夫、任せておいて。……だからパソコンの使い方を教えてくれるかな」  オーナーの中では既に決定事項なのだと理解し、私はそれを受け入れる以外他になかった。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

109人が本棚に入れています
本棚に追加