予感的中したって嬉しくない

1/3
前へ
/36ページ
次へ

予感的中したって嬉しくない

 予感は的中した。  私は馬鹿なことをしているよねと思いながら、早朝のまだセラピストが出勤しない時間に物陰からサロンの様子を伺っていた。  今日は商品注文日なのできっと事務員が来ると思い、じっと張り込んでいる。  そろそろ帰らないと小川店でのご予約の時間に遅れてしまうな、と思っていた頃、1台の真っ赤な車がサロンの駐車場に停まり、長い髪の綺麗な女性が颯爽と降りてきた。  以前写真で見た、元セラピストの山際夕夏さんだ。  彼女は白く細い手でカバンから鍵を取り出し、鍵を開けてサロンの中へ入っていく。  そりゃ、元々事務の手伝いをしていた方なら適任だろう。  隠していた理由だって、セラピストとトラブルがあった人だからだろうし。  だけど、私にまで隠さなくても良かったんじゃない?  元カノだから?  8年も前の話でしょう?  過去の事だから私に元カノの話をしてくれたんだよね?  ……カノではないの?まさかずっと続いていたの? 『秘密の関係』にしていた理由は、ひょっとして、やっぱり私が『日陰の女』だから?  私、ひょっとして(てい)よく追い出されたの?  居ても立っても居られなくなり私は頬をつたう涙に気がつかないまま、桜吹雪の中をとぼとぼと歩いて駅に向かった。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

107人が本棚に入れています
本棚に追加