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「えええ、ちょっとまさか、ディナーって居酒屋じゃないわよね!?」
「確か『ベラリーナ』ってお店で…」
「ベラリーナ!ちょっと、オーナー!!」
由紀奈さんが掃除道具を放り出し、奥で仕事をするオーナーに駆け寄った。
由紀奈さんはこのサロンの開業当時からセラピストとして働く3人のうちの1人だ。
今では男性専用の男性セラピスト1人、女性専用の女性セラピスト6人と新人の私の、総勢8人のセラピストが在籍している。
そう、事務員だった私もセラピストデビューする。
このサロンが取り扱う化粧品メーカー独自のエステセラピストとしての実施試験に、先日私は合格した。
今日のディナーはデートでは無く、オーナーからの合格祝いなのだ。
「やったよ!唯ちゃん、オーナーが服も買ってくれるって!予約は何時!?早く行っておいで!」と、この店のセラピストは皆、凄く優しい。感謝しかない。
西洋料理『ベラリーナ』は、確かに普段着では浮いてしまうようなお店だった。
ワンピースに合う少し大人びたメイクにオーナー自ら仕上げてくれて、ドキドキフワフワのディナー。
ドキドキフワフワなのは…装いやお店の雰囲気のせいだけではない。
お酒が少し入っているせいでもあるけれど、サロンの事務員として採用されて以来、ずっと憧れていたオーナーを目の前にしているからだ。
オーナーと二人きりで食事なんて、メインディッシュが来る頃には酸欠で倒れてしまうのではないかと心配していたけど、オーナーの心遣いで楽しい時間となった。
メイクアップアーティストとしての実力も知名度も高く、それでいて優しくて格好良くて……。
憧れがいつしか恋になって、でも職業柄オーナーの周りには綺麗な人が沢山いて……私は所詮ただの事務員、叶わぬ恋だと諦めていた。
だけどチャンスが訪れた。
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