絶対に許しません!

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絶対に許しません!

「早坂さん、ちょっといいかしら」店長が手招きして、私をお客様がいないカウンセリングルームに誘導する。  もしかして移籍の話だろうか。  昨日の今日でまだちゃんと考えていなかった私は、焦りながら店長の後に続く。 「唯…!」  先に部屋にいたオーナーが椅子から立ち上がり、私の元へ駆けよってきた。 「オーナー…なんで」  あ、そうか。  移籍の話なら、オーナーの同意も必要だものね。 「座って、ふたりとも」店長がお茶を運びながら私達を促す。  私は一瞬迷ったが、オーナーの横の椅子に座った。  久しぶりのオーナーの香りを感じる。  息遣い、気配、その存在が私の心臓を高まらせる。  店長が「少し席を外すわ。早坂さん、私はあなたの意志を尊重するからね」と部屋を退出すると、オーナーがそっとテーブルの下で私の手を握ってきた。  私はびっくりして手を引っ込めそうになったけど、オーナーはその手をしっかり握って離さなかった。  ……氷みたいに冷たい手。  以前オーナーが「唯の手はいつだって温かいな。俺、緊張すると手がかなり冷たくなるの。メイクの時は割と困るんだよな」って私の手を握りながら話してくれたことがある。  何に緊張しているのだろう。  移籍の話?別れ話?  沈黙に耐えられず、私から話を切り出した。 「昨日、店長に来年からも小川店で働かないかって言われて…」  オーナーは正面を向いたまま、ぎゅっと私の手を握った。
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