ずっと憧れていました!

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 半年前ベテランセラピストの和佐(かずさ)さんの懐妊が判明し、出産前後はセラピストの皆でフォローすると決まった。でも皆割と手一杯だと頭を悩ませていたので、私もセラピストになります、と勇気を出して立候補したのだ。  少しでも皆さんとオーナーの役に立ちたい!その一心で。 「新たに誰かを雇うより、ウチのサロンを熟知した唯ちゃんがエステを習得してくれた方が助かるよ。だけど、事務の方は大丈夫?」  私が採用された当時は滅茶苦茶だった事務も、パソコンを導入して商品の発注・管理は便利になったし、表計算ソフトを活用して業務を改善したので特に問題は無いと説得した。  あとは和佐さんの出産休暇に間に合うようにと、セラピスト総出で私を猛特訓してくれた。  おかげで休暇まであと2ヶ月という所で、私は一人前のセラピストとしてデビュー出来きた。 「オーナー、今日は本当にありがとうございました!明日は定休日なので…明後日からも頑張りますね!」  桜の花びらが混じった冷たい夜風にあたりながら、駅までの歩道を上機嫌で歩く私。ついつい饒舌になる。 「うん、期待してる。唯ちゃんは意外に怖気付かないから、こっちも安心していられるよ」  街灯に照らされたオーナーの優しい表情にドキッとする。 「えー、やっぱりお客様のお顔に触れるのは緊張しますよ。手なんか震えたりして…」と私が出して見せた右手を、オーナーは冷えた手でそっと握る。  そして、私の口元にもう片方の手を近づけてきて… 「花びら、付いてる」と私の唇をオーナーの指がなぞった。  一瞬にして、摂取したアルコールが全身を駆け巡った。
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