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始まりの合図
目覚めると、男物のTシャツ1つ身につけただけの私。
セミロングの髪は、いつも通り寝癖でボワっとした手触り。
慌てて手櫛で可能な限り寝癖を落ち着かせる。
狭くシンプルながらも大量の美容雑誌が整頓された部屋に、広がるコーヒーの香り。
部屋の持ち主は美容関係の職に就いているだけあってか、簡単ながらも野菜サラダ、卵、シリアル、林檎にヨーグルトとバランスの取れた朝食二人分を用意してくれていた。
「唯ちゃん、おはよう。メシより先に顔洗ってくる?」
憧れることも、夢で見ることすらもおこがましい光景。
シングルベッドの上に座り込む私に、オーナーが優しい声と朝日より眩しい笑顔を向ける。
すでにセットされた柔らかそうな天パの髪、白いシャツ、スラッと長い脚に似合うGパンのオーナー。
「私……オーナーの特別になれたと思って良いのでしょうか」
彼女、と言いたいけど身に余る地位な気がして、あえて遠慮気味に聞いてみる。
オーナーはコーヒーのカップ2つをテーブルに置き「その事なんだけど…」と真面目な表情で私の横に座る。
え、あ、どうしよう。
もしかして一夜限り、というやつだったのかも。
そもそも、酔った勢いでの間違いだったのかも。
一瞬にして不安が私を襲う。
「この事、絶対に秘密にしていて欲しいんだ」
ん?いきなり「秘密」?
とりあえず、一夜限りでは無い?
ひょっとしてそれは「日陰の女」的なモノですか!?
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