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「この手だけは使いたくなかったのですが、」
杉田くんは静かにそう言って、六畳一間の真ん中で私と相対した。
前回だいぶ落ち込んでいるように見えた彼だったが、今日は目に見えるほど闘志がメラメラしている。どうあっても、私をお花見には行かせたくないらしい。
まぁそれは無理なんだけど。ごめんね、杉田くん。
「お花見の起源について、布川さんにお教えしましょう」
「またお花見の話? 君、本当はお花見好きなんじゃないの?」
「ま、まさか! 僕はお花見の恐ろしさを知っているからこそ、布川さんの身を案じて、」
「はいはい。それで? どんな起源なの?」
早速ペースを乱され焦り顔をする杉田くん。申し訳ないけど、すごくかわいい。「むかしむかし、」と、物語調に彼は語り始めた。
「一人の男が春の陽気の中立っていました。何をするでもなく、一所に留まり続ける男。彼にはある思惑がありました。
実は彼が立っていた場所は地形上風が強く吹く場所であり、彼はその場所で女性のスカートが捲れる瞬間を虎視眈々と狙っていたのです。
そうとは知らず、スカートを履いた女性がやってきました。都合良く突風が吹き、捲れるスカート、ちらりと顔を覗かせるパン……下着。男はこれ幸いとそれを凝視していましたが、突然、女性は男の方を振り向いて言いました。
『あなた、今見てたでしょう!』。
焦った男は咄嗟に、女性の背後に都合良く咲いていた桜の木を指差して言いました。……さぁ、なんて言ったと思います?」
「わかんない。教えて」
「『僕は君を見ていたのではない。君の後ろの桜に見惚れていただけさ』……と。これがお花見の起源! 言うなればお花見というのは元々、男たちのためのおパン……下着展覧会なのです!!」
これでどうだ、とばかりにドヤ顔する杉田くん。私はハァと一つ溜息を吐いた。
「お花見は奈良時代の梅を見る行事が原型じゃなかったっけ?」
「なっ! なんでそれを」
「この前自分で言ってたじゃん。さすがにそれはないよ、杉田くん」
私の指摘に杉田くんは「じ、自滅……」と膝から大袈裟に崩れ落ちた。
四つん這いになった彼の頭上に、私はドヤ顔で勝利の言葉を落とす。
「ま、エイプリルフールだからって『嘘』で勝負しにくる馬鹿正直なところは、嫌いじゃないけどね」
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