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待ちに待ったこの日がやってきた。朝からおめかしに余念がない私を、杉田くんは部屋の角っこで体育座りをしながら眺めている。
昨晩遅くまで粘って桜、あるいはお花見の悪口を必死に並べ立てていた杉田くんだったが、私の決意がどうしても折れないとみるととうとう観念したらしかった。
それでもやはり悔しいのか、私を見る目は恨めしげに潤んでいる。あ。上目遣いっぽくてなんかかわいい。
「よし。準備完了」
無事おめかしを終えた私は、杉田くんに向けて右手を差し出す。
「さ、行くよ。杉田くん」
「……え? どこへですか?」
「お花見」
「あぁ、はい、これから先輩とお花見に行くんですよね。え? 僕も行くんですか?」
「何言ってるの? 君と私、二人きりに決まってるじゃん……今日は君の誕生日なんだから」
杉田くんが固まった。「おーい」と呼びかけながら顔の前で手を振ってみると、杉田くんはハッと意識を取り戻し、おんぼろロボットのようにカタカタと口を動かす。
「お、覚えてたんですか?」
「当たり前じゃん」
「え……でもだって、先輩に誘われて、お花見に行くって」
「行くなんて一言も言ってないよ」
「だって、嬉しそうに4月5日に丸を付けてて、理由を聞いたら『サークルの先輩からお花見に誘われた』って」
「『良いことでもあったんですか』って聞かれたから、それに答えただけ。私サークルにあまり顔出してないから、誘ってもらえるなんて思わなかったんだもん。断っちゃったけど」
「え? え?」
「私は最初から、君とお花見に行くことしか考えてなかったよ」
再び沈黙が訪れる。おんぼろロボットは理解を超えた情報にしばらく処理落ちした後、不意に再起動したかのように抗議の口火を切った。
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