アネモネ

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湯汲みを終えた俺にマクスは土下座した。 「本当にすまない…、いつも俺は早とちりをするところがあって…」 「い、いえ。お気になさらないで下さい」 その日はそうして休息を取る事にした。俺は床に入って目を閉じていた。 「…にしても美人だな、レイさん」 「娼館とか入った方が儲かるでしょ」 騎士であるザイルとマリンが言葉を交わしている。酷い言い方をするものだな、人と言うのは… 「そう言う言い方はやめろマリン。」 それを制したのはマクスだった。意外だ、俺自身なんとも思ってはいないのだが言い返してくれたことは嬉しく思う。 「っ……だってそうだし…!」 「言われたらお前だって嫌だろ」 「……」 勇者は本当に聖人なんだな、人間に対しては。俺はそう思いながら思考を夢の中に落とした。 何日か経って一旦街に居座る事になった。 それまでの道中で一つ勇者の行動に目を見張るものがあった。魔物を殺す時必要以上に痛めつけない事と、死んだ魔物の前で手のひらを合わせた事だ。目の前で死んで行く同胞を見て、俺もマクスと同じ様に隣で手を合わせた。いくつかは逃す事ができたが、やられてしまった奴らを前に俺はそれしか出来なかった。 そんな俺たちを見て仲間達は変なの、と口にした。 「レイ!一緒に街を見て回らないか?」 薬を作っていた俺に声をかけてくるマクス。視察と言う事で人間の街並みを見て回るのも悪くないかもしれない。それにマクスはまだ好意的な方だ。構わない。 「マクスがよろしければ…」 控えめに微笑んで俺は勇者について行った。 「他の方々は?」 「俺だけだが…、い、嫌だったか?」 マクスは照れながらそう言った。俺は首を振ってマクスの隣を歩いた。 串焼き、と言うものを買ってもらった。これが結構美味しいもので、鶏肉を味付けし串に刺したものなのだとか。 それを食べながら歩き、海岸近くのベンチに腰を下ろした。マクスは俺に話を振る。 「レイは勇者についてどう思う?」 まだ俺に勇者である事を言っていないからかそんな事を聞いてくる。俺にはせいぜいちょっと強いパーティーだと思ってると言う印象がある様だ。 「勇者様…ですか?」 「…うん」 早く死ねと思っている。俺の国を荒らして、何が楽しいって。…、ずっと思っていたけど、でもお前は、思ったより優しい人間だから… 「……何とも思いません。彼も一人間であり、生きるのに必死なのではないですか」 もちろん、勇者じゃなかったら俺はお前をとても好意的に思っていたよ。 「………、」 突然勇者はぼろりと涙を流した。……そんなに俺の言葉が嫌だったのか?そんな事で泣く? 「ご、ごめんなさい!どうしましたか!」 焦った風に彼を見て俺は謝罪を述べた。 「いや…、ごめん……。あのねレイ…」 彼は話し始めた。 勇者である事、それが苦痛である事。 「初めはそんなに何とも思わなかった。英雄になれる、って簡単な思考で…なってみたら期待は大きくて重たくて、魔物を倒すたびに罪悪感は溜まる。自分も死にたくなる。仲間達は命を奪っているのに笑顔でよくやったって褒めあってる。王は俺が死ぬまで搾り取るつもりだ」 本当に意外だった。今までの勇者でそんな奴いなかったから。 …でも殺してる事には変わらないし、今更情なんて湧いてどうするんだ。 そう自分に言い聞かせた。 「レイ、どんなに考えてもわからないんだ。共存ってできないの?倒さなきゃいけない?魔王の味方になりたいわけじゃないけど、人の王が言ってる事は間違ってると思うんだ」 その言葉に驚き、戸惑う。 俺は顔を見られたくなくて勇者をー…、マクスを抱きしめた。 俺は相当傷ついた顔をしてるだろう。こいつが殺したくないって言ったって世界は許さないし、仲間は許さないだろう。 「…どうすればいいんでしょうね。」 赤ん坊の様にマクスは俺の胸で泣きじゃくった。出会ってから今日で1ヶ月ほどだろうか。弁解の余地はない。 今の言葉で情が湧いた。 俺は局面でこいつを殺すことができないかもしれない。でも魔族の為にもそんな事はあってはならない。 ……どうすればいいんだ。
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