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「レイ、この花はなんて言う花なんだ?」
旅の途中、休息中にマクスが俺の手を引いてそう笑う。2人でしゃがんでその花を見つめた。
「アネモネです。綺麗ですよね」
「へぇ……」
「……花言葉、知りたいですか?」
俺がそう言って彼の顔を覗けばレイはこく、と頷いた。
「儚い恋、ですよ」
「!!っ〜〜、レイは意外と、大胆だよな…」
「何がですか?」
俺が笑えばマクスは耳まで真っ赤にしてそっぽを向いた。
……、本当に、勇者じゃなかったら良かったのに。アネモネには他にも色んな花言葉がある。……言いたくないから、言わないけど。
そんな俺たちを見てマリンはよく思わなかった様だ。
戦闘中、魔法で足を引っ掛けられた。
「った…」
魔物側は俺が魔王である事をわかっているから攻撃して来ないんだけど…
俺は口元を隠して、逃げろ、と魔物に伝えた。
「レイ!大丈夫か!」
嫌がらせだと言う事に気が付かず、俺を素直に心配したマクスは俺の元に駆け寄った。
「はい…ごめんなさい、平気です」
そう微笑めば手を引かれて立たされた。下が芝生だった為特に傷はできなかった。
それより、こんな奴ら仲間にしていいのか、マクス。……、そうか、実力だけで仲間にされたのか。マクスに拒否権はなかったんだな。
その日の夜、マクスに散歩に誘われた。
「危ないから、ほら」
手を繋いで俺達はどこかへ向かった。
「どこへ?」
「ここの近くに泉があるんだよ」
ランプの灯りを頼りに彼の言う泉へ来た。
「とても綺麗ですね……」
蛍が飛んでいて明るく泉を照らしてた。魔王城の周りは瘴気が広がっていて生命力の低い虫や花は生きる事が出来ない。それに蛍は生きる場所を選ぶ。だからこう言うのを見るのは初めてだった。
座ろう、とマクスに言われて俺達はその場に腰を下ろす。
「レイと来たかったんだ」
「…ありがとうございます」
「来年もこの時期にまた来たいな。今は着替えないから出来ないけど次は泉に飛び込んでみようと思う」
「ふふ、なんですかそれ」
きっと、その時はあなた1人でしか来れないですよ。なんて言えるわけない。
「レイ、好きだよ」
真剣な面持ちでマクスはそう言った。
「……、私は貴方に言えてないことがたくさんあります。嫌われるかもしれない秘密も、何もかも」
「それでもいい。死ぬまで隠しててもいいよ」
そう言う彼の唇に俺はキスをした。
「……俺からしたかったのに」
「ふふ、先手必勝、ですね」
涙が溢れた。なんで好きになってしまったんだろう。1番の敵を、もう戦意なんて待てないよ。
「世界が敵になっても俺はレイの味方だよ」
「………」
俺にそれを言わないで、マクス。
「そんなこと言わないでください。私は世界と私に必死な優しい貴方が好きなんです」
マクスはそう言う俺にまたキスをした。
「……本当は逃げちゃいたいけど…君の言葉で幾分か救われる」
「………マクス」
俺はマクスを強く抱きつく。その拍子にマクスは後ろに倒れた。
「ずきです…」
「なんで泣いてるのレイ〜…、俺も好きだよ」
俺が魔王だなんて言えない、でもこのくらいなら許してくれる?出来るだけ本当の俺を見て欲しいから。俺は抱きしめる手を解いて身体を起こす。
「…、見ててくださいマクス」
「いいよ」
震える手で、声で、俺は女である魔法を解いた。長かった髪は短くなって、胸は凹んで、背は高くなった。
「……、ごめんなさい、まだまだ黙ってることあるし、これだって失望されても仕方ないから…」
低くなった声でそう言ったのに、マクスは俺を抱きしめた。
「レイ前、言ったよね。勇者の事どうも思わないって。俺も同じだよ。言ってくれてありがとう、レイ」
涙が溢れる。魔王である事言っても、『言ってくれてありがとう』って言ってくれる?
俺はいつまでも、惨めだ。
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