9人が本棚に入れています
本棚に追加
その日から俺は2人だけの時だけ男でいる事にした。
「てかレイ…女達と湯汲みしてるよね?」
「!!」
俺はその言葉にそっと目を逸らした。
「れ、恋愛対象ではないですし…」
「そう言う問題じゃなくて!異性にレイの裸見られるのが凄く嫌だ…」
……、そっち?
「……これからは何か理由をつけて違う時間に湯汲みしますね」
「……そうして」
俺はおかしくてちょっと笑ってしまった。
「なんで笑うの!」
「おかしくって…、ふふ」
マクスはぷく、と膨れた。そんな姿が可愛らしい。
いつもの如くマクスは串焼きを買ってくれた。
「美味しいです」
「串焼き好きだよね」
「はい」
魔界でも流行らせたいと思うくらい美味しい。マクスが一番最初に買ってくれた物だからかもしれない。
「…あ、ちょっと待ってて!」
「?はい」
俺はベンチに座ってマクスの帰りを待った。何を見つけたんだろうか?早とちりしがちだからまた変なものを買いそうだ。そう思うとくす、と笑みが溢れた。
マクスが戻って来ると手をぎゅっと握っていて特に何も持っていなかった。
「どうしたんですか?」
「……、っ、こ、これ…」
ぱっと目の前で広げられた手のひらには銀色の指輪が。その薬指にも同じものが嵌められていた。
「……えっ?」
「ごめ、ごめん!簡易的だけど、今のうちに言っておきたくて…。俺は、結婚前提なんだけど…レイは?」
恥ずかしそうに首に手をやるマクスを見て俺も笑みが溢れた。
「俺も、前提ですよ」
がばっと抱きつけばマクスは安心した様に笑って指輪を俺の薬指に付けてくれた。
「…やっぱりサイズがばがばだね」
「仕方ないですよ。露店の物なんですから」
「……た、旅が終わったらちゃんとしたの渡すから!」
「はい」
おもちゃだとしても嬉しい。とても嬉しい。こんなに幸せで良いのかな?喜ぶ俺を見て、マクスも嬉しそうに微笑んだ。
その時、突然、本当に突然だった。
なんの予兆もない。凄い音と共に地響きがした。
マクスは俺を庇う様に地響きの方へ身体を向けた。
何かと思えばフェンリルが顔を出す。なぜこんな所へ出て来た。帰れ、そう念じるが魔力暴走を起こしている様で伝わらない。フェンリルなんて街が滅ぶほどの威力を持っているのに…。俺の管理不足だ。
どうしよう、ここで静止に行けば魔王だってバレる。
幸せが、壊れる音がした。
「ここで待っていてレイ。」
戸惑う俺を見てマクスが俺に一度キスをした。
「行って来ます」
「待っ…!!」
どうしよう、どうしようどうしようどうしよう!!
フェンリルは上位魔族だ。その王の魔力暴走を止められるのは魔王しかいない、俺しかいないのだ。
マクスを傷つけたくない、どちらの意味でも。ただどちらかを取ればどちらかはマクスを傷つけるだろう。
「……どうすれば…」
仲間はまだ来ていなくてマクスは1人で戦っている。
「……っ〜〜!!」
その状況に耐えられなくて俺は街の人々の流れに逆らって駆け出した。
傷を負うマクスを見たくない。別にもう、幸せは十分味わったから。
「マクス」
俺は首根っこを引いてマクスを戦闘から引き摺り下ろした。
「…っ、レイ…!?何してるの!早く逃げっ」
「情が残る様な言い方してごめんね。でも、俺はマクスが大好きだったよ。指輪も…嬉しかった」
俺は人化を解いて、マクスにキスをした。久々の角は重くてたまらない。
尻もちをついているマクスを見て俺は笑った。フェンリルに魔力暴走を鎮静させる魔法をかけた。
「落ち着け、フェンリル」
幸せと言うものはいとも簡単に途切れてしまうものなのだなぁ。
落ち着かせたフェンリルは自分のした事に驚いた様に俺に首を垂れた。
「……帰るぞ」
フェンリルの上に跨がり、俺たちは魔王城へと帰った。
恋をするにはお互い抱えているものが大きすぎた。恋するって言うのは、どうしようもなく苦しいものなんだな。
呆然としているマクスを見て俺は悲しくなった。次会うのは、きっと魔王城だろう。それで俺は死ぬ事になる。俺は彼を殺す事が出来ないから。どちらかが死ねばこの物語は終わるのだから、それでいいよ。
苦しいな。
最初のコメントを投稿しよう!