アネモネ

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マクスside 幸せだ。 照れる君が、笑う君が、可愛くて愛しい。 君の前だけで本当の俺でいれている。人間でいれる。理由なんてない、君の横が心地良いから好きなんだ。 その幸せは、突然壊される。 フェンリルに苦戦してた時だ。味方が増援に来ていなくて、バフも何もかかっていない俺はフェンリルに幾分か傷を負わされていた。でも、大丈夫。守るべき人がいるから… そう思っていた矢先、目の前に大きな角が生えたレイが俺をフェンリルから引き剥がしたのだ。 「情が残る様な言い方してごめんね。でも、俺はマクスが大好きだったよ」 まだ脳が追いついてない。剣はどこかに飛ばしてしまった。 レイの…、君の悲しそうな顔が頭から離れない。魔力暴走をとめられるのは魔王だけ。そんなの知っている。 ただ頭は理解しようとしない。さっきまで俺の横で君は笑ってたのに。 「ね、ねぇレイ…」 引き攣る頬の筋肉、隣を見ても君はいない。なんで、なんで? 「う、あ”……」 空は嫌味なほどに青く澄んでいる。 君が男だって、君が魔王だって、何隠してたって、俺は大好きなのに。 それを世界は許してくれない。 でも君が好きなのは「世界と私に必死な貴方」なんでしょ……? どうすればいいの、君がいなきゃ、もうご飯も喉を通らないよ。 幸せになれないの?俺は、君は…… その日から、魔物なんてもう殺せなくなった。それがレイに見えてしまって。他の仲間達…と呼びたくもないが、奴らが代わりに魔物を殺す。その度にレイを傷つけられた気がして手を出しそうになる。 「ま、マクス!もうレイなんて忘れてよ!私がなんだってしてあげるから…!!」 そう言うマリンはレイとは似ても似つかない。レイに似せた黒くした巻き髪に、大きくした胸。きっと魔法だろう。装いだけ似せたって意味なんてないのに。 「五月蝿い、やめてくれ。頭が痛くなる」 彼女の頬は引き攣るが知った事はない。戦闘時じゃないのに頭が痛くなる事なんてあるんだな。 「……、」 俺はその場に蹲った。 魔王としての作戦だとしたら大成功だよレイ。俺は戦意を失ってしまったのだから。 「帰って来てよ…レイ」 叶わない願いを口にして、俺の視界は歪む。ぽたぽたと雫が地面に落ちた。 『世界と私に必死な貴方』 ……勇者としての道を辿れば良いのかな。そうすればもう一度レイに会える? キスして、抱きしめて、笑いあえる? 「……、回り道はもうやめる。俺は魔王城へ行くよ」 その言葉に周りは目を見開いた。 剣のレベル上げはカンストしてるし、本当は魔王を倒したいと思ってなかったから回り道してただけだ。レイにはその事も話したよね? 君が離れて、俺がどれだけ悲しかったか、死にたかったか…話をさせて欲しい。 「ちょっと待ってよ!なんでそうなるの…?冗談やめてよ」 「そうだぞマクス。お得意の早とちりはやめろ」 鼻で笑われる。 今、茶化される様な話をしているつもりはない。なぜ真剣に捉えてくれないんだ、お前らは。 「俺は本気だよ?」 そう言って仲間達を、じっと見つめれば皆戸惑った様に俺を見る。 「なんで突然…?レイがいなくなって辛いのはわかるけど俺達を巻き込むなよ…!」 「そ、そうよ…」 「巻き込むって何?乗り気で魔族倒してたのはお前らだろ?早く魔王を倒したいって話をしてたのも、全部お前らじゃないか」 言い返す言葉もないと言った感じだ。俺だってレイを傷つけられたくない。1人で行くのが良いだろう。 「わ、私行く!」 マリンがそう言って俺を見つめる。…察しが悪いのか、頭が悪いのか… 「…マリンが行くなら俺も行く」 「っ……私は、やめておくわ…」 「…俺も」 2人は断念して荷物をまとめるとその場を後にした。突然魔王の元に行くと言い出した途端これだ。結局、弱いものいじめを楽しんでただけだったのか。勇者パーティーを抜けただなんて王に言えば打首だろう。どこへ逃げるのだろうか? 「…、行こうか」 断念した2人の背中を見ながら俺はついて来ると言った2人に声をかけた。 残った2人は魔族を必要以上に痛めつける。性格もキツい。だからあまり得意じゃない。 …待っててね、レイ…
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